暮らし・住まい

社会人こそ本を読もう 生活に役立てる読書のポイントを東大准教授が解説

kurashino

「人生100年時代」といいますが、2020年時点の日本人女性の平均寿命は88歳です(※1)。筆者は生物学の研究をしてきましたが、生物学や医学の進歩から考えると、皆さんは100歳よりさらに長生きすると考えるのが自然です。
短めに100歳としても、50歳は折り返し地点に過ぎません。近年では技術の進歩がますます速くなり、生み出される情報量やイノベーションは加速度的に増えています。残りの人生を今までの知識の貯金で乗り越えることは難しいですし、残りの人生をよりポジティブにするためにも新しいものに触れ続けていたいものです。

そのために、とても有効な方法が「読書」です。本記事では、読書の効用から、何をどのように読書すればよいのか、読書を継続するための方法について解説します。

読書の効用は計り知れない

読書の効用としてさまざまなものが知られています。語彙(ごい)が増えるのはもちろん、人生の豊かさや寿命にもよい効果があります。ここでは科学的に証明された読書の主要な効果をご紹介します。

ストレス軽減効果

実は読書には、ストレス軽減効果があることをご存知でしょうか。英国サセックス大学のDavid Lewis氏の研究によると、たった6分間の読書で、顕著なストレス軽減効果が認められました(※2)。読書によるストレス軽減効果は音楽鑑賞や散歩などよりも高く、より短時間でも有効です。このようなストレスの軽減が起こるのは、本に没頭しているあいだ、普段と異なる脳の部位が活性化されるためです。

認知症を予防して頭をシャープにする効果

読書には、頭の鋭さを維持して、認知症やアルツハイマー病を遅らせる効果もあります。普段から読書をしている方は、加齢による認知機能の低下が32%も遅い、といわれています(※3)。
頭の鋭さはどのようにして保たれるのでしょうか? アメリカのエモリー大学の神経科学者は、「小説を読むことで脳の機能が向上する」ことを発見しました。小説を読んで、そこに描かれている場面や音、匂い、味などを想像すると、現実の生活の中でそのような経験を処理する脳の領域が活性化され、新しい神経経路が形成されることがわかったのです。読書は脳を鍛えているとさえいえます(※4)。

コミュニケーション力の向上

読書はコミュニケーションに適切な表現を知り、他者の考えや立場を知るうえでも極めて有効で、社会的認知や感情的知性、共感能力などが高まることが実証されています(※5)。
小説やエッセイを読むと、読者は想像力を働かせて他人の立場に立つことができるようになります。共感力を高め、自身の価値観の境界を押し広げることは、コミュニケーション能力の向上に役立つのです。

睡眠の改善

読書が睡眠へ及ぼす影響については長い論争があったのですが、最近では安眠を促すために寝る前に読書をすることが、医師により推奨されています(※6)。本を読むことが緊張をほぐすことにつながり、睡眠の質と量の両方を大幅に改善することができます。

幸福感が得られその効果は長く続く

イタリアのトリノ大学の研究では、読書により幸福感が向上し、その効果は最長で3年間継続することがわかりました。つまり、これまで述べたような読書の効果は、本を読んだときだけの一過性のものではないのです(※7)。誰しも本のストーリー等はすぐに忘れるものですが、そこで得た感情等が長く影響することは興味深い事実です。

収入や仕事力の向上・人生が豊かになる

本を多く読む人は、収入や仕事の能力が高いという報告もあります。読書によって、共感力やコミュニケーション能力などが改善されるなど、さまざまな社会活動をするうえでの重要な能力が全体的に向上するため、収入が増えるのです(※8)。リヴァプール大学のJosie Billington氏によると、1日30分以上読書をしたグループでは、生活満足度が20%向上し、うつ病になるリスクが28%軽減、自尊心が18%向上したことがわかっています(※9)。

以上のように読書にはさまざまな効果があり、人生が健やかに豊かになるといえるでしょう。

どんな本を読めばいいのか

さまざまな効果がある読書ですが、どのような本を読めばよいのでしょうか。それぞれの特徴と活用方法についてみてみましょう。

実用書

実用書のメリットは日常生活や社会活動に役に立つノウハウを素早く取り入れられることです。また、本であれば自分のペースで自習できるため大変効率的です。著者が長年かけて体得したさまざまなノウハウが、わずかな金額で得られることは素晴らしいことです。
なお、新しいテーマに取りかかる際には、3冊程度の本を購入することをおすすめします。1冊の本の情報だけに頼ると、著者の偏った考え方に引っ張られることがあるからです。同じテーマの実用書には重複した内容が書かれています。そのため1冊目は時間がかかりますが、徐々に短時間で効率的に読めるようになります。重複する内容は誰にとっても重要なポイントですので、押さえておくべきですが、じっくり読む必要はありません。なお、実用書を読む目的は、生活に役立てることにあります。よいアイデアがあったら実生活ですぐに試しましょう。

小説

小説は日常生活では体験しえない新しい事柄を疑似体験させてくれます。上述のとおり、脳はそれが本の世界か、現実の世界かは区別できません。読書でも脳の対応部位が活性化しますから、さまざまな効果があります。また映画よりも情報が少ないぶん想像力を働かせる必要があり、このことがリフレッシュにつながります。小説によるストレス低減効果には即効性があるため、日常のさまざまな閉塞感を改善するのにも有効です。

エッセイ

エッセイは作者の体験に対する思いを綴った文章です。古い作品であれば、現在の私たちとの感性の違いや共通点が読み取れますし、最近の作品であれば読者も同じ経験をしている可能性があります。同じ体験に対して作者がどのような考えを持っているかを知ることができます。
エッセイでは、外国で暮らす人はもちろん、戦争や貧困に苦しむ人々、はたまた宇宙ステーションで暮らす人の生活も疑似体験できます。小説と比べ短いものが多いので読むのに時間がかかりません。移動時間などに雑誌等の媒体で読むのにも最適です。

本探しのポイント

ところで、本はどこで探し、購入するのがベストなのでしょうか。それぞれの特徴について解説します。

町の書店

書店であれこれと本を探すことは楽しいものです。意図しない出会いにより読書の幅を広げることができるぶん、視野も広がります。一方でどんなによい本でも万人に好まれるとは限りません。誰にでも文体の好き嫌いはありますし、理解しやすい説明の方法も人それぞれです。その点、実際に本に触れ、目次や内容をチェックできることは書店に行く大きなメリットです。
本は重くかさばりますが、一定額以上購入すると送料無料の書店もあります。帰りの電車で読書する本以外を郵送にするのも手です。

インターネット書店

最近ではインターネット書店の需要が増えています。欲しい本が決まっているときには、検索で素早く見つけることができるので大変便利ですし、関連書籍やレーティングなども同時に表示されます。
一方で書店とは異なり、偶発的な出会いや実際に本を手に取ることによって得られる情報は諦めなければなりません。なかにはタイトルが内容に見合わない本もありますし、タイトルの内容が本のごく一部にしか書かれていない場合もあります。これを補うように書評が充実しているネット書店もありますので、それらを上手に利用しましょう。事前に書評を読むことで不都合を避けることができます。

書評

雑誌や新聞、ネットサイトなどには書評があります。高評価の本を読むことで世の中の趣向がわかりますし、話題に困らなくなります。近年ではさまざまな書評サイトもあり、目的ごとに本を紹介しているサイトもあります。有名な方の書評は、書評そのものが秀逸です。
さらには書評数ランキングサイトなどもあり、多くレビューされた本が紹介されています。何を読んでよいか迷っている方は、まずは尊敬する人や好きな芸能人の読んだ本を探してみるのもよいでしょう。

サブスクリプション

人それぞれ好みがありますので、自身で本を選ぶ限り趣向が偏ることがあります。その点、サブスクリプションは、専門のキュレーターが本を選んでくれるので実際に書店に足を運ばなくても、意図しない出会いが期待できます。このサブスクリプションですが、月額3,000円程度の料金が一般的です。書店で本を購入する場合に割引はまず期待できませんが、サブスクリプションでは割引があるためお得です。
サービスによりますが、リストアップした本の中から自身で選んだ数冊、キュレーターに選ばれた数冊が毎月届けられます。冊数も選択できます。好みに合わない本は返却できるサービスもあります。もちろん忙しい時期には配送を休止することもできます。
自宅に定期的に本が届くのは楽ですし、開封するときのわくわく感も味わえます。キュレーターが過去にどのような本を選定したか、履歴等を調べてから契約するとよいでしょう。

どう読むか

情報量がますます増える一方で、私たちの一日の時間は限られています。そのため本をどのように読むかは大切です。読み物とのつき合い方を、読書の前段階、読書中、読後と順番に見ていきましょう。

目次を読み、読まない箇所を決めよう

小説は別として、実用書ははじめから順番に読むのは非効率です。新しく得たノウハウを活用できて初めて読んだ意味がありますから、読書に時間がかかりすぎて実践の時間が無くなると意味がありません。必要そうな箇所だけで構いませんので、重複する内容や役に立たなさそうな箇所はどんどん飛ばして読み進めましょう。
一方で、本の前書きは読むことをおすすめします。ここにその本の内容が要約されていることが多く、前書きは何度も推敲することが多いため、文章として洗練されており読みやすく、作者の力量をよく表します。目次と前書きをよく読んで、本の内容を予測して、自身に役立つ情報を効果的に抽出しましょう。
また、書店では目次の中で一番興味のある内容に目を通しましょう。私自身7冊の本を書いた経験からいえるのは、すべての内容に重点をおいて書くのは不可能だということです。前書きと一番興味のある内容を読めば、その本のレベルや内容が高い精度で把握できます。

効率的に読もう

文章の構成にはパターンがあります。一般によく知られる構成は起承転結ですが、転の部分が論理的にわかりづらいため、実用書でこの構成をとることはまずありません。よく知られるのはPREP(Point Reason Example Point)という構成です。はじめに短く結論(Point)を述べた後、その理由(Reason)を説明し、一般的な事例(Example)を紹介します。最後にもう一度結論(Point)を述べて総括するパターンです。最後の結論だけを読んで、自身の知識を補足する内容がなければ飛ばして構いません。
実用書で多いのは、著者の苦労話や技術開発の歴史などにページが割かれているケースです。経緯を知ることは楽しいものの、読むページを厳選したほうが記憶にも残りやすく効率がよいでしょう。

読書中は検索性を高める工夫を

あとで思い出したい記述を見つけたら、線を引き、線を引いた場所がわかるようにページを折る、付箋を貼るなど、読後すぐに見つけられる工夫をしましょう。ただし、せっかく購入した本だからと、できるだけ多くを学ぼうとすると、線だらけになってしまいます。線を引く基準はあくまでも後で役立つかどうかです。線を引くかどうか迷う時は線を引かないほうがベターで、線を引く場所は極力少なくするのがポイントです。また、迷いを少なくするためにも後で消せる筆記具を使うと気楽です。
線を引くと同時に、欄外にメモを取るのも有効です。「重要」「腑に落ちる」「違和感がある」「おかしい」「表現がすばらしい」「〇〇に使える」「〇〇と反対の意見」など、自身が線を引いた意図や判断理由が分かるようにします。さらに文章の要約や図解をメモすると、読後に考えをまとめる際に有効です。
最近ではハイライト部分を管理できるデータベースアプリもあります。特に電子書籍はそのようなアプリと親和性が高く便利です。知識を外部記憶装置に貯めて、第二の脳を構築しましょう。
筆者はスマホアプリに記録を取っていますが、小説の場合には印象に残った文章等をそのまま記述し、ノウハウの場合には自分の言葉で記録します。こうすることでメモを取る段階でいったん考えが整理され、より記憶に定着します。ただし、知識を外部記憶装置に貯めて、第二の脳を構築するといっても、検索に必要なキーワードや、どこかで一度目にしたという記憶がなければ、二度と検索できなくなってしまいます。それぞれの本にはISBN(International Standard Book Number)と呼ばれる固有の数字があります。これをメモとあわせて記録しておけば、本の著者名や出版社等はいつでも調べられます。特に電子書籍ではISBNをコピーペーストできますし、紙の本も裏面にあるバーコードをアプリ等で読み取れば手入力しなくて済み、誤入力も防止できます。

読んだあとで大事なこと

せっかく読書で得た知識も、時間経過とともに忘れていくものです。体系化して後に使えるようにしておきましょう。章ごとにまとめを作ったり、図解したりすると効果的です。その際、読書中に線を引いたところを中心に見返しますが、もう一度みて重要では無いと感じたら線を消して構いません。
読後にメモをまとめたり、ノートを取ったりする作業は時間の無駄とする意見もありますが、まとめを作らないで完全に忘れてしまえば、読まなかったのと変わりません。本の内容は、必要な時に完全な形で引き出せることを目指して整理しましょう。
読書で得た知識をまとめてみると、その作業にどのくらいの時間がかかるかも分かるようになります。私は一冊5分を目安にしています。あまりに時間がかかると続かないので、許容できる範囲をみつけましょう。その経験を次回読書するときに活かすことで、線を引く基準がより明確になり効率がよくなります。
積極的に書評を投稿するのもおすすめです。理解が深まり知識が整理されるのはもちろん、文章力もつきます。書評は、読んだ内容に関する紙面上のプレゼンテーションであり、ディベートです。誰しも自分が薦めたい本には思い入れがあるものです。それを上手に表現したいという気持ちが、よい文章を書く原動力になります。また、同じ本の書評について、さまざまな意見を読むことで、自分のなかで何らか感情が動くはずです。記憶は感情と深く結びついているので、これによっても記憶が正確になります。

楽に読書を続けるために

最後に習慣化するためには、ルールを作るのが効果的です。「電車に乗ったら本を読む」「人との待ち合わせに10分早く行き、時間までに本を読む」など、自分の読書ルールを決めることで一日に40分程度の時間は無理せずに確保できます。寝る前に20分、移動時間に20分などとルールを決めましょう。
文化庁の調査によると、日本人の60%が読書量を増やしたいと回答しましたが、同時に67%の方は読書時間が以前より減ったと回答しました。さらに47%の方は、月に1冊も本を読まず、もっとも多いグループは、1か月に1,2冊の本を読む方々で38%を占めていました。月に3,4冊の本を読む方になるとわずか9%に急減します(※10)。
読書は競争ではありませんが、週に1冊くらいのペースで読書するだけで、日本人の上位9%に入ることができます。平均的なページ数の本を読むには4〜5時間必要とされますから、一日40分程度の読書時間があれば週に1冊を読み終わることができます。
スティーブ・ジョブスに代表されるような忙しい人ほど、生活の中でのルールが多いものです。彼がいつも同じ服を着ていたことは有名ですが、これは服選びすらルール化していたといえます。逆説的ですが、ルールを増やすことにより、大事なことについて考える時間が増えます。

まとめ

読書によって、知識を効果的にアップデートできると同時に生活にハリが出ます。近年ではオーディオブックや電子書籍、インターネット書店、さらには読書データを整理するアプリなど、読書を取り巻く環境も大きく進歩しています。これらを積極的に取り入れて、人生100年時代を活き活きと進み続けましょう。

HOT

-暮らし・住まい
-