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愛する家族のために 正しい遺言の考え方とすすめかた

kurashino

黒のシックなドレスに身を包んだ演技派の女優さん。すらっと伸びた手足と端正なマスクが印象的な若手実力派俳優。日本映画界が誇る才能が結集した各賞の発表会は、艶やかで感動的でした。
そのなかでも機知に富んだトークで視聴者を楽しませてくれたのは、小柄な国民的お笑いスターです。徳川綱吉の治世に大きな衝撃を与えた事件を「予算」の視点で描いた映画での演技が評価されての受賞でした。

この世紀の仇討ちを題材にした映画やドラマは何度も制作されていますが、その多くが浪士側の正義を描くものです。しかし、もしも裁断をくだす綱吉の視点で描いたら、どんな筋立てになるのだろうと興味を覚えたことがあります。
将軍は時に子や妻、家臣への情を押し込め、世の行く末を案じる遺言をのこしたかもしれません。

時は移り、現代の遺言の役割を、法はどのように考えているかご存知ですか? 遺言は「子のための制度」でしょうか?
実は意外と知られていない遺言の制度趣旨ですが、正しい知識にもとづかずに遺言を書いたり、親に遺言を勧めたりしてしまうと、家族にとって不幸な相続になりかねません。

そこで今回は、遺言がない場合のトラブル事例に始まり、遺言書の書き方など詳しく解説します。

遺言がないとどうなる? 相続人共有の掟(おきて)

まず、相続に関する知識で大切なことを確認しましょう。それは、被相続人(亡くなった人)の財産は、法定相続人全員の共有だということです。

共有である以上、共有者である法定相続人の誰かが勝手に遺産を売却することはできません。遺産の使用収益についても、持分割合に応じて各共有者が使用収益する権利を有します。たとえ、被相続人と法定相続人のひとりが長く同居していたとしても、法定相続人全員の共有状態が発生します。

では、具体的な事例で見ていきましょう。典型的な2つのケースをご紹介します。

住んでいても他人の家?ケーススタディ(1)長男と次男

被相続人はX。
相続人はXの子長男A、次男B。
相続財産は自宅である甲建物とその敷地である甲土地(合計で3,000万円相当)のみ。

この場合に、Xと長年同居してきたAは、Xの自宅に住み続けたいと思っていたとします。Aは、Aの妻や子とともにXと同居していたのだから、当然、甲建物も甲土地もAが相続するものだと期待していました。

そこで、AはBに対して、「Aが甲建物・甲土地を相続する」旨の遺産分割協議に同意するよう促したところ、Bから次のように提示されました。
「互いに2分の1の相続分があるのだから、今までずっと住んでいたからと言って、兄さんは甲建物と甲土地を全部使い続けることはできないよ。全部使いたいのなら、次の方法のうちどれかを選んでくれ」

その提示内容は、以下のとおりです。

(1)甲建物・甲土地(相続財産全部)3,000万円の2分の1相当の1,500万円をBに一括で現金で支払い(代償分割)、そのかわり、両不動産はAが相続する。
(2)遺産分割せず、A・Bが法定相続分通りに相続し(各2分の1)、甲建物・甲土地を共同で売却して、売却代金3,000万円を1,500万ずつA・Bが分ける。
(3)遺産分割せず、A・Bが法定相続分通りに相続し(各2分の1)、客観的な不動産相場に見合った賃料の2分の1をAがBに支払う。

Aの目線で見れば、降ってわいた災難かもしれませんが、Bは民法で認められた法定相続分にしたがって、当然の権利を主張しているだけです。
しかし、もし被相続人Xが、自宅とその敷地である甲建物・甲土地をAに相続させる旨の遺言をのこしていれば、このような事態には陥りません。ただし、Bには遺留分がありますから、Xが自宅をAに確実に相続させたいのであれば、Bに相続させる現金をXが貯めておくなどの相続対策を練っておく必要があったのです。

住んでいても他人の家?ケーススタディ(2)妻と長男

今度は、次のケースで考えてみましょう。

被相続人はX。
相続人はXの配偶者YとXの兄弟姉妹A・B・C。
相続財産はXの自宅と土地のみ。
Yは、長年Xと暮らした家に住み続けたい。

このケースで被相続人Xが遺言を残してない場合、やはり法定相続分にしたがうことになります。

つまり、配偶者Yは相続財産の4分の3、A・B・Cは各自12分の1の割合でXの自宅と敷地を相続し、ケース(1)と同じように、YはA・B・Cから法定相続分相当の金銭の支払いなど要求されても、拒むことはできません。
なお、被相続人の兄弟姉妹に遺留分はありませんから、ケース(2)では、ケース(1)と違い、全財産をYに相続させる旨の遺言があれば、A・B・Cは一切の権利を主張することはできません。

ケース(1)とケース(2)は一見、不義理や理不尽のようですが、両ケースともに、民法の法定相続分の規定が色濃く反映された事例と言えます。

実践! 遺言書作成

ここまでで、被相続人の遺言がない限り、相続財産は法定相続人全員の共有となり、遺産分割の同意に至らなければ、共有状態が続くことが分かりました。
遺産分割協議に至らない場合は、処分・収益もままならず、どの立場であっても、各相続人にとって不利益となります。この相続人の不利益を解消する手段として考えられるのが「遺言」です。

ただし、「遺言書」つまり書面を遺さなければ法的な効果はありません。また、その形式は民法で定められた形式に従わなければ効力のない文書になってしまいます。

以下、遺言書の基本的なルールを確認しましょう。

書面が全て

遺言は次の3種類がありますが、どの種類であっても「書面」にする必要があります。順にみていきましょう。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、よくドラマに出てくるタイプの遺言で、遺言者が、その内容、日付および氏名を書き、これに印を押します。

秘密証書遺言

遺言者が遺言の内容を書き、遺言を公証人に提出します。これにより、遺言が存在することを明確にすることができます。

公正証書遺言

遺言者が公証人に遺言の内容を書いてもらう方式です。公証人に書いてもらうので、遺言の内容に法的な間違えがあるかなどの心配はいりません。

この3種類の遺言のなかで、一番安心できるのは「公正証書遺言」でしょう。確かに、公証人の費用がかかるなど、「手軽」とは言えない遺言の方式ですが、自筆証書遺言・秘密証書遺言を書いたものの、法律で定める形式や内容でない場合、せっかく書いても効力が認められません。

最近、自筆証書遺言の要件が緩和されたとの情報を耳にした方もいらっしゃると思います。しかし、パソコンで作成することが認められている部分は限られていること、不動産の表示など正確な記述が必要であること、各ページに契印が必要であることなど、細かいルールがあります。
遺言を書いたり、親に勧めたりする場合は、遺言を書く人や家庭の事情に合う種類を選びましょう。

法務省「自筆証書遺言作成に関する見直し」の情報を基に作図

なお、公正証書遺言以外は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく家庭裁判所による遺言の検認を受けなければなりません。これは、遺言書の存在を相続人に知らせるとともに、遺言書の偽造・変造を防止するためです。

家訓はのこせる? 遺言でできること

では、遺言書にはどんなことを書いてもよいのでしょうか?
意外と知られていないのが、「民法で認められた事項以外を遺言書に書いても法的な効果はない」ということです。家訓を記載する、家族への思いを記載するなど、遺言者の気持ちを記載することは妨げられませんが、法的拘束力はありません。なお、民法所定の事項のうち代表的なものを挙げておきます。

  • 相続分の指定または指定の委託(法定相続分と異なる指定をすることもできます)
  • 遺贈
  • 祭祀承継者(お墓など先祖供養を担う人)の指定

遺言は誰のもの?

そして、何よりも大事なことは、遺言の趣旨を理解することです。
遺言は「遺言者の最終意思をのこすための手段」であり、決して相続人に認められた権利ではありません。言い換えれば、相続人が親や配偶者に遺言を書くことを強制する権利はなく、内容を指示することもできないということです。

この遺言者の権利と、法定相続人(兄弟姉妹を除く)の権利を調整するために遺留分という制度があることも忘れてはなりません。

正しい遺言のすすめかた

今や65歳定年制を導入する企業も多く、還暦を迎えただけでは、まだまだ現役という気持ちの方も多いでしょう。
親世代にとって遺言を書くという作業は「自分亡き後」のことを想像する作業です。喜寿、米寿と年を重ねても、「死」と向き合うためには相当な決意が必要です。まして子が複数いれば、誰にどう財産をのこすか決めかねることもあるでしょう。

確かに、遺言がなければ相続人同士が遺産分割で揉めるかもしれません。しかし、遺留分を害する遺言であれば、それも揉めごとの種です。まして、親が納得していないのに子が無理に遺言を勧めたら、それこそ家族間の「争族」のもととなりかねません。

日頃から親と子、子同士、夫婦が腹を割って話し合う土壌があれば、親世代が率先して「健康な相続」を実現するための遺言をのこすのではないでしょうか。

メディアの情報は、あくまでも家族で問題意識を持つためのきっかけと捉え、各ご家庭の事情に合う解決を目指しましょう。

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