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相続はバランスが大切! 遺言と遺留分

kurashino

小さなころ、よくオセロゲームを祖父と楽しみました。祖父は囲碁の腕前は確かだったらしいのですが、オセロは私に負けてばかりいました。今でも忘れない祖父の言葉があります。
「オセロは黒白ひっくり返すゲームだから、わかりにくかった」。

ところがある日、祖父のオセロの腕前が急にあがっていたのです。祖父は、朝な夕なにオセロ研究に励んだのでしょう。

オセロは子どもから大人まで気軽に楽しむことができるゲームです。
それは、「黒」「白」がひっくりかえるからではないでしょうか? しかし、祖父が慣れ親しんだ囲碁は、自分の石を自由な意思で一手一手を打ち、碁石を持つ者のアイデンティティが重視されるゲームです。

遺留分という制度は、オセロよりも囲碁の盤上の景色に似ています。遺言を残した方の意思と、相続人の権利がせめぎあう場面で登場するのが、遺留分だからです。

遺言がすべてを決するのか? それとも遺留分という制度で、遺言をすべてひっくり返すことができるのか?
紐解いていきましょう。

対抗! 最終意思の尊重VS相続人の権利

「遺言」とはそもそも、何の目的を有しているのかご存知ですか? 意外と知られていないのが「遺言制度の趣旨」です。

遺言は、財産を残す方の意思を尊重するためのルールであり、相続人のための制度ではありません。「亡くなる方の最終意思の尊重」が、遺言の制度趣旨です。

最終意思の尊重

たとえば、次の事例で考えてみましょう。
長年、老人ホームにお世話になって天寿を全うしたAさんは「私の財産は、全て老人ホームに遺贈する」という内容の遺言書を遺していたとしましょう。相続人は子であるBとCです。この遺言は、相続人であるBとCの法定相続分を害していますが、このような遺言も有効です。遺言は、Aさんの生前の最後の意思を尊重するためのツールだからです。ここで「B・Cの権利はまったく無いのだろうか」という疑問がわくかもしれません。このような場面で登場するのが遺留分という制度です。

法務省「自筆証書遺言に関する見直し」の情報を基に作図

相続人の権利!遺留分

一定の法定相続人には、「遺留分」という権利がありますが、聞きなれない言葉かと思います。ここでは遺留分の趣旨・遺留分の割合について説明します。

遺留分は「相続人に認められた権利」です。ただし、遺言を無効とする権利ではありません。遺留分制度は、あくまでも「遺言をのこした人の意思」と「相続人の法定相続分に対する期待」を調整するために設けられているからです。

遺留分の割合を分かりやすくまとめると、次の図2の割合となります。B・Cは、図2の「子のみが相続人の場合」に当たります。

遺留分割合

 

遺留分

配偶者のみが相続人の場合

遺留分を算定する財産の価額の2分の1

子のみが相続人の場合

配偶者と子が相続人の場合

配偶者と直系尊属が相続人の場合

配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合

遺留分を算定する財産の価額の2分の1

※ただし、兄弟姉妹に遺留分は認められない

直系尊属のみが相続人の場合

遺留分を算定する財産の価額の3分の1

兄弟姉妹のみ

遺留分は認められない

では、B・Cそれぞれの具体的遺留分の割合はどのように計算するのでしょうか? 先ほどの例の場合、B・Cが主張することができる遺留分の割合は、「財産全体の2分の1」です。これを2人の法定相続分で分けます。

<遺留分の計算式>
全体の遺留分×法定相続分=具体的遺留分

そうすると、B・Cそれぞれが、4分の1の具体的な遺留分を有します。そして、Xの遺言により遺留分を害されたB・Cは、遺留分侵害額の請求権を行使することができるのです。

遺留分侵害額の請求とは?

次に、「遺留分を侵害された側」「遺留分を侵害する遺贈を受けた側」の双方の視点で、遺留分侵害額の請求について、見ていきましょう。

遺留分侵害額の請求は金銭のみ

遺留分の侵害額の請求は、金銭の支払い請求権です。
たとえば、Xの相続人は子Y・Zでしたが、「全財産である1000万円相当の土地をYに遺贈」する旨の遺言をのこしてXが他界したとします。このXの遺言により、Yは土地を遺贈により取得しますが、Zは遺留分4分の1を害されたことになります。
したがって、Zは、Yに対して、「遺留分相当額である250万円を支払ってください」と遺留分侵害額の請求をすることができますが、「土地を相続したい、私も土地の権利がある」とは言えません。

民法の相続に関するルールが改正されるまでは、遺留分権利者が権利を主張すると、遺贈された不動産は受遺者と遺留分権利者の共有となりましたが、これでは、不動産の換価も進まず不都合が生じていました。そこで、遺留分権利者は、受遺者に対して金銭の支払いを求めることができるのみとされました。このルールの変更により、遺言者Xの意思「土地をYに遺贈したい」という意思を尊重することもできるのです。

なお、Zは、意思表示により遺留分侵害額の請求を行うことができます。実際にYが金銭を支払ってくれない場合は、訴訟を検討することになるかもしれませんが、遺留分侵害額請求の方法に特別の要式は求められていません。

遺留分侵害額の請求は拒めない

では、遺贈により土地を取得したYは、Zから遺留分侵害額の請求を受けたら、金銭の支払いを拒むことができるのでしょうか? 残念ながら、拒むことはできません。しかしながら、Yは遺贈により土地を取得したとしても、Zに即座に現金を支払うことができるとはかぎりません。そこで、「期限の許与」というルールがあります。

Yは、遺留分侵害額の全部または一部の支払いにつき、裁判所に期限の許与を求めることができます。「期限の許与」を分かりやすい言葉に置き換えれば、支払期限を延ばしてもらうという意味です。

都市伝説にご用心

「もし親が遺言書を残していたら...」と、年老いた親を持つ子世代は不安になるかもしれません。逆に、「生前に贈与してもらったから大丈夫」と安心しているかもしれません。実は、一定の範囲ではありますが、生前贈与も遺留分侵害額請求の対象となります。

遺言にしても、遺留分にしても、民法のなかでも相続法分野は非常に複雑なルールが絡み合っている分野です。
「〇〇さんのお宅はこうだから大丈夫」「ネット記事に書いてあったから」など、都市伝説のような不確かな情報に惑わされてしまうと、それこそ「相続」が「争族」に発展する可能性があります。

確かな情報を得たうえで、「健康な相続」について、親世代と子世代が良く話し合うことが大切です。

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