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100年続く企業に~親族内事業承継

kurashino

令和も2年目を迎えた今年、戦国時代をさっそうと生き抜いた武将たちのドラマが人気を博しています。来年は明治時代の実業家、再来年は源頼朝とともに平家打倒のため旗揚げした北条義時が長い歴史を持つドラマ枠でとりあげられるようです。

北条氏といえば、鎌倉幕府の執権を代々務めた家柄です。三代執権の北条泰時は、武家の規範である御成敗式目を制定した武将でもあります。この御成敗式目を17世紀に出版したのが、現在にいたるまで400年続く大企業グループの偉大なる創業者です。

職業を自由に選べる令和の世だからこそ、「家業を継ぐ」という選択肢も光を浴びる時代なのかもしれません。

会社は相続できない?

「家業」と言っても、会社をつくって事業を営んでいるご家庭も多いかと思います。「会社を継ぐ」という言葉をよく耳にすることもあるのではないでしょうか? しかし、法律的な観点から見ると、不思議な言葉です。何故なら創業者の親族が相続するのは「株式」であり、「会社」ではないからです。

後継者指名は御用心!

では、ここで、簡単な事例で考えてみましょう。
甲株式会社(以下、「甲社」)の創業者であるAは、甲社の後継者に長男Bを指名しました。甲社の役員は取締役Aのみ、Aの推定相続人は長男B・次男Cとしましょう。
なお、甲社は譲渡制限会社(株式を譲渡するには取締役会の承認を必要とする旨の規定がある会社)であり、発行済株式数は普通株式100株、役員ひとりのみの株式会社です。

しばらくしてAが亡くなり、Bは会社の新経営者になるべく、取締役に就任しようとしたところ、Cに強硬に反対されてしまいました。

では、BはCの主張に対して「Aの遺言はないけれども、Aの生前の意思を尊重して、当然に自分が取締役に選任される」 と反論することはできるでしょうか?
答えは、×です。Aの意思は、法的には何ら効果を生じないためです。Aの遺言もなく、B・Cによる遺産分割もなければ、Aが保有していた甲社の株式100株をBとCが2分の1の割合で相続し、その株式保有割合は同等となります。この「株式保有割合」が経営権に大きく影響するポイントとなるのです。

株式会社の取締役の選任権限は株主総会が有し、株主総会に出席した株主が有する議決権の過半数の賛成が必要ですから、Cが株主総会でBの選任につき反対したら、Bは取締役になることはできません。

ここで注意しなければならないのは、「過半数」とは「半分」では足りないということです。甲社の場合は、51株以上の株式を保有していなければ、役員選任の決議で自身の主張を通すことはできません。株主総会でBがAを取締役に選任することに反対したら、Aは、取締役にはなれないということです。
役員の選任だけでなく定款変更などについても株主総会が決定権を有します。BとCの株式保有率によっては定款変更も難しい場合があり、事業承継を考える企業は正確な情報を見極めることも大切です。

以下、通常の株主総会において比較的よく行われる決議につき、その要件を示します。

株主総会決議要件

 

決議内容の例

決議要件

普通決議

  • 役員の選任
  • 決算の承認等

出席株主の議決権の過半数

特別決議

  • 定款変更(目的、商号等)
  • 事業譲渡の承認等

原則として「出席株主の議決権の3分の2以上」

なお、このほかには、株式の譲渡制限の設定など、極めて重大な決議については、非常に厳しい決議要件が課されています。

株式を集中させる方法のメリット・デメリット

甲社の例で、Aの株式をBに集中させれば、B・Cの経営権争いを防ぐことができますが、どのような手段があるでしょうか? 主な手段は、以下の3つが考えられます。

(1)Aが生前にBに株式を売却

(2)BとCが、遺産分割によりAに株式を集中

(3)Aが生前にBに株式を贈与、または遺贈

しかし、(1)は、BがAに対して株式の対価を支払う必要があります。そして(2)にも、Cの同意が必要であるという大きな問題点があり、株式の評価額が高ければ、BはCの法定相続分に見合う現金を支払う必要が生じます。したがって(2)も確実にBが甲社の事業を承継するための得策ではありません。

そうすると現実的なのが(3)ですが、AがBに株式を生前贈与・遺贈した場合、Cの遺留分の問題が発生します。遺留分とは、法定相続分を侵害する贈与・遺贈がなされた場合、被相続人の兄弟姉妹を除く法定相続人に、最低限の相続の権利を保障したものです。
亡くなったAの他の財産の状況によりますが、甲社の株式をAがBに贈与・遺贈して集中させることによりCの遺留分を害し、Cが遺留分を主張する可能性を考えなければなりません。Cが遺留分を主張すると、BはCに対して遺留分侵害額を支払う必要が生じ、株式を集中保有する支障となりかねません。

遺留分割合

 

遺留分

被相続人の配偶者のみが相続人の場合

遺留分を算定する財産の価額の2分の1

被相続人の配偶者と子が相続人の場合

遺留分を算定する財産の価額の2分の1

被相続人の直系尊属のみが相続人の場合

遺留分を算定する財産の価額の3分の1

被相続人の兄弟姉妹

遺留分は認められない

株式集中に強い味方!事業承継における遺留分の特例

親族内事業承継を阻む遺留分問題を解決するため、経営承継円滑化法により民法の特例が設けられています。この遺留分の特例には除外合意と固定合意の2つの方法がありますが、その概要は以下の通りです。

(1)除外合意 現経営者から後継者に贈与等された自社株式について、遺留分算定基礎財産から除外

中小企業庁「事業承継を円滑に行うための遺留分に関する民法の特例」の情報を基に作図

この除外合意をすることにより、他の相続人は、後継者が贈与等により承継した株式に対して遺留分を主張することができません。

(2)固定合意 遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定

中小企業庁「事業承継を円滑に行うための遺留分に関する民法の特例」の情報を基に作図

この固定合意をすることにより、自社株式の価額が上昇しても、遺留分額に変動がありません。
(1)(2)のどちらの方法も、後継者を含めた推定相続人全員の合意が必要であること、(2)の固定する合意時の価額について弁護士などの証明が必要であることなど、細かい要件がありますので適用を考える際は注意が必要です。なお、双方の特例を併用することもできます。

成功例に学ぶ! 親族内事業承継

親族内事業承継においては、後継者に相当割合の株式を移転すること、また、相続権を有する他の親族対策も必要であることがわかりました。しかし、贈与税や相続税問題も気になるでしょう。また、具体的な事業承継のイメージをつかむことができなければ、事業を託す親も託される子も、本気で承継に取り組むことはできません。そこで、事業承継支援税制を利用した親族内事業承継事例をご紹介します。

知らないと損! 事業承継支援税制

まず、事業承継支援税制ですが、「個人版事業承継税制」と「法人版事業承継税制」があります。ここでは、非上場株式等についての法人版事業承継税制の概要をお伝えします。

法人版事業承継支援税制(非上場株式)の特徴は、一定の要件を満たす場合、後継者である受贈者・相続人等が、贈与又は相続等により事業承継する会社の株式を取得した場合、贈与税・相続税の納税を猶予・免除されることです。

国税庁「非上場 株式等について の贈与税・相続税の 納税猶予・免除(法人版事業承継税制)のあらまし」の情報を基に作図

なお、法人版事業承継税制には、特例措置(適用期限あり)と一般措置(適用期限なし)があり、それぞれ事前の計画策定の要否や対象株式数、納税猶予割合など細かい点で違いがあります。また、適用には都道府県知事の認可が必要となるなどの要件がありますので、注意が必要です。

次世代に継ぐ! 実際の事業承継事例

では、中小企業庁の資料(※)を基に、実際の事業承継事例を2例ご紹介しましょう。

1例目は、千葉県で訪問介護・看護事業を営むA社の事例をご紹介します。A社含めたグループ企業4社の株式につき、事業承継のために父母から長男への譲渡を検討していました。そこで、事業承継支援税制を利用して4社の株式を長男に集中させることで、経営を長男に任せることが可能となりました。

2例目は、栃木県で建設業を営むB社の事例です。先代経営者の体調不良を機に、他企業に勤めていた後継者が入社し修行したのち社長に就任します。しかし、贈与税が障害となり株式の贈与が進みません。そこで、事業承継支援税制を利用して、株式の承継が行われました。

この2例で注目すべきは、事業承継支援税制を活用することにより猶予された税額です。ご紹介した2社の業種や年商などに加えて、猶予された税額は以下の通りです。

事業承継の取り組み例

 

A社

B社

業種

管工事・機械器具設備工事業

訪問介護・看護事業

年商

5億円

27億円(グループ4社合計)

従業員数

16人

341人(グループ4社合計)

事業税制時に係る税額

3300万円

2億9000万円

猶予額

100%

100%

家族で話そう! 事業承継

ここまで見てきたように、相続・税金・会社法制について理解することが、スムーズな親族内事業承継につながります。しかし、現経営者・後継者が専門的知識を追い過ぎて不正確・信頼のおけない情報に惑わされてしまうと、かえって事業承継の弊害となります。親族企業であれば、良かれと思ってアドバイスをしてくれる関係者もいるでしょう。そこは上手なお付き合いに留め、「正確かつ確実」な事業承継に向けて、早いうちから各地の商工会議所や各都道府県の事業引継ぎ支援センターなどの公的機関に相談することをおすすめします。

創業時と同様に勇気をもって1歩踏み出すことが、100年、200年と続く企業を作る力となるのではないでしょうか。

※「令和2年度平均年収と学歴調査

※中小企業庁 財務課「法人版事業承継税制の活用事例」
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2019/190927syoukei_jirei01.pdf

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