お金・資産 将来への備え

ファイナンシャル・プランナー 柴沼直美さんに学ぶ シニアの老後資金と向き合う

kurashino

2019年、「夫婦の老後資金が2,000万円不足する...」という金融庁が公表した金融審議会の市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(以下、報告書)の報告書が物議をかもしています。本当に不足してしまうのでしょうか?
これからのシニアがよりいきいきと生き抜いていくために、どのように向き合っていったら良いのか、ファイナンシャル・プランナーの柴沼直美さんに伺いました。

柴沼さん

富裕層であっても、お金に厳しい世帯であっても避けて通れないのがシニア世代。どんな人にも等しく老後は訪れ、お金で回避できません。しっかりと向き合っていきましょう。

2065年には1.3人の若者で1人の老人を支える人口構成に

クライアントとカウンセリングを行う際にいつも例に挙げるのが「サザエさん」です。

かつては日曜日の夕方、家族でアニメ「サザエさん」をテレビで観るのがお決まりでした。

翌日からまた職場や学校に行く日々が始まることを考えて、気持ちが落ち込む「サザエさん現象」という言葉もはやりましたが、今は昔の話、特に30代より若い世代にはピンとこないようです。

筆者がなぜ、この話を長々と前置きに使ったかというと、このアニメが高視聴率を享受していたのは1980年代までで、このころの平均的な家族構成は両親と子どもが2人、場合によっては祖父母との同居という4~5、6人でした。それを反映するように1980年代までは65歳以上のシニアを7.4人の現役層で支えていました。しかし内閣府の令和元年版高齢社会白書(全体版)によると、2000 年以降急速に少子化と長寿化が進み、2010年では現役層2.8人で1人、2065年には現役層1.3人で1人のシニアを支えなければならなくなると試算されています。

内閣府「令和元年版高齢社会白書(全体版 )1 高齢化の現状と将来像」を基に作図

セカンドライフ=非就業期間という考え方はなくなりつつある

1980年代というと、今から40年前ですが、その頃の定年は55歳から60歳でした。60歳定年が義務化されたのは1985年のことです。平均寿命は男性73歳、女性78歳でした。(内閣府の令和元年版高齢社会白書(全体版)

すなわち、仮にこの時代に60歳で定年を迎えれば、残された余命は男性の場合、平均で13年になります。

一方、1985年に導入された基礎年金制度での厚生年金は、32年加入したサラリーマンの場合は妻分も含め月額17万3,100円、40年加入で月額17万6,200円でした。

総務省統計局によれば、家計消費支出は一般平均世帯で、月額約23万円。年金の不足分をざっくり月5万円、年額60万円としても、退職金でほぼカバーできる人が多く、「セカンドライフ」=「非就業期間」が可能だったのです。

ところがいまは、状況が変わっています。

夫婦2人で受け取れる公的年金の平均値は下表の通りです(平成31年度の場合)。

平成31年度の新規裁定者(67才以下)の年金額の例

 

平成30年度

平成31年度

国民年金

1人当たりの老齢基礎年金(満額)

月額6万4,941円

月額6万5,008円

(+67円)

厚生年金

夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額

月額22万1,277円

月額22万1,504円

(+227円)

※厚生年金は、夫が平均的収入(平均標準報酬(賞与を含む月額換算)42.8万円)で40年間就業し、妻がその期間すべて専業主婦であった世帯が年金を受け取りはじめる場合の給付水準

厚生労働省ウェブサイト「[PDF]平成 31 年度の年金額改定についてお知らせします」の情報を基に作表

サラリーマン世帯の夫婦2人を合算した公的年金が月額22万円、総務省統計局による家計の平均消費支出は29万円とした場合、公的年金の不足分は毎月7万円、年額で84万円となります。

内閣府の令和元年版高齢社会白書(全体版)によれば、2050年には、平均寿命は男性84歳、女性90歳になると推測されています。それをもとに2050年の例をみていきましょう。

年金不足分と退職金

これだけでみても、不足していることがわかりますね。

そのうえ、今は健康寿命(日常生活に制限のない期間)と平均寿命を分けて論じられるようになっています。平均寿命から健康寿命を控除した年数を「要介護」と考えた場合、その間は余分な出費を覚悟しなければなりません。

これらを考えると、「夫婦の老後資金が2,000万円不足する」というのも、あながち間違った発想ではないと言えるでしょう。

資産をいくらもっていても不安は尽きない

家計運営を考えるときは、資産と資金収支を別に考えなければなりません。

いくら資産があっても、それを取り崩すだけの生活では不安です。資産を取り崩すことを前提にしたライフプランは、慢性的な病気になった場合にあっという間に崩れてしまいます。

また、歴史的に日本人の資産の内訳は、換金が難しい不動産が圧倒的に大きく、それ以外は預貯金に大きく偏っています。

NISAやIdeCoなど投資を促進するしくみが政府から用意されても、なかなか投資にシフトできない人が多いのが現状です。持っている資産を投資で増やすという選択肢がない以上、持っているものを「取り崩す」という手段になりますが、特に健康不安の高いシニアにとっては心もとないと言わざるを得ません。

クライアント様のなかに、50代後半の非婚シングルの女性で毎日のように不安を吐露するご連絡をくださる方がいます。

  • 50代後半の未婚女性、90代の母親と2人暮らし
  • 母親が専業主婦をしていた影響で就労経験はなし
  • 預貯金5,000円(親御さんが残した遺産)で暮らしている

裕福な家庭で育つ。短大卒業後、何度かお見合いをしたが縁がなく、結局結婚しないまま月日は流れ、「30代で就労経験もないまま今更就職活動なんて」......ということで徐々に引きこもりに近い状態のパラサイトシングルに。現在では、就労経験もないまま50代になり、親御様が残した遺産だけが頼りに。

働いたことがない方のため、5,000万円の預貯金があっても、90歳を超えた母親が亡くなったら母親の遺族厚生年金が受け取れなくなってしまい、いよいよ預貯金を取り崩すだけの生活になるからです。「もし長生きしたらどうしよう、その間に介護状態に陥ったらどうしよう、施設への入居はどうすればいいのだろう」。「現在住んでいる両親が建てた家も築50年以上。リフォームするお金が想定外にかかったらどうしよう」。想像するのも恐ろしくて見積もり依頼もできないというのです。

資産を増やすことより収入が途絶えるのを先延ばしするほうが現実的

家計運営は「資産管理」と「毎月の収支管理」の2本柱です。

このうち資産は、大きな遺産が入る、不動産を売却するなど、大きな資金が動きますが通常毎年期待できるものではありません。

ならば、残るは毎月の収支管理をできるだけ赤字に陥らないようにする、というのが今すぐ実行できる現実的な家計運営方法です。そのためにも、たとえ少額でも、たとえ短時間でも、就労を継続し、収入の途を途絶えさせないようにすることが大切と言えるでしょう。

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