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認知症の身内がいる場合の財産相続 気をつけるべきポイントと対策とは

kurashino

別所温泉で有名な信州上田。ここは、真田家ゆかりの地でもあります。小藩ながら幕末まで存続する真田藩の礎となったのは真田信之ですが、隠居した後に若い世代が起こしたお家騒動に際し自ら藩政の先頭に立ち、お家断絶の危機を救い、93才で生涯を閉じました。

いつの世も人々の命題である「親と子」。まだまだ現役の気概が強い親と、ゆっくり余生を過ごしてほしいと思う子。お互いに思いやるからこそ軋轢も生まれるかもしれません。特に父と母のどちらかが認知症であればなおさら、子の心配は尽きません。

そこで今回は、財産を有する父親が亡くなり、認知症の母が残された場合を想定して、適切な相続をどのように考えればよいのか、詳しくお話しましょう。また、認知症の心配がない親でも、病気やケガなどにより自分で財産を管理できなくなるかもしれません。そのような時に備えて、親が元気なうちに検討することができる方策を探ります。

相続に使える? 成年後見制度

皆さん、「成年後見制度」という言葉をご存じでしょうか?よく、弁護士・司法書士・行政書士など法律専門職が講演会で取り上げるテーマのひとつです。

では、この成年後見制度は、「認知症の方の権利を奪う」制度なのでしょうか?認知症の推定患者数が600万人ともいわれているいま、認知症の親の財産管理につき考えてみましょう。

内閣府「平成29年版高齢社会白書(概要版)」を基に作図

認知症の方も相続人

まず、「認知症の方も相続人」であるということを、しっかりと押さえておきましょう。また、法律で定める手続きを経なければ、家族が、認知症の方の相続放棄や遺産分割協議を代理することはできないこともポイントです。

ここで、親の相続につき、具体的に考えてみます。たとえば、Xが亡くなり、Xの妻Yと、XY間の子であるA・Bが相続人だとします。しかし、Yは認知症であり財産の管理ができないため、「Yは法定相続分を有しない」とA・Bは考え、A・Bのみで遺産分割協議を行うことができるでしょうか?

このケースで、A・Bのみで遺産分割協議を行うことはできません。なぜなら、Yは2分の1の法定相続分を有する法定相続人であり、遺産分割協議はY・A・Bの3人で行う必要があるからです。

しかし、ここで問題があります。成年後見開始の審判を受けていないYは、遺産分割協議を行うことはできないということです。遺産分割協議も高度な判断能力を有する行為であり、認知症のYは、自身で遺産分割の内容を判断し、意思を表示することはできません。仮に、A・Bは、Yに相続放棄をしてもらいたいと思っても、相続放棄をYが自分で行うこともできません。

また、Aが「Yから、自分の代わりに相続放棄や遺産分割をしてほしいと言われた」と、Yの代理人として行うことも非常に問題があります。なぜなら、Aが代理人として行為を行うには、Yから代理権を与えられていなければなりませんが、Yにはそのような高度な法律的な効果が発生する行為を判断することは難しいからです。

たとえAがYと同居して世話をしているとしても、Aが認知症のYの相続放棄や遺産分割協議を無理に行うと、その時はBが納得したとしても、のちのち、「あの遺産分割協議はおかしい」と主張し、相続人間のトラブルになる可能性があります。

成年後見制度を利用して遺産分割

ここで、取るべき方策のひとつが、成年後見制度の利用です。ただし、「認知症の方が自動的に成年被後見人になる」わけではないので、注意しましょう。

成年後見制度を利用するには、家庭裁判所の審判を受けなければなりません。成年後見制度の中でも、まず、一般的に知られている「法定後見制度」について見てみましょう。この法定後見開始の審判の種類には、以下の3つがあります。

  • 成年後見開始の審判
  • 保佐開始の審判
  • 補助開始の審判

先ほどのケースで、Yがどの類型に当たるかは認知症の程度によりますが、「精神上の障害により事理弁識能力を欠く常況」にあれば、成年後見開始の審判を申し立てることになります。

Yが成年後見開始の審判を受け、成年被後見人となれば、Yの保護者である成年後見人がYの代理人として、Yのために遺産分割協議や相続放棄をすることができます。

ここがポイント!成年後見制度の使い勝手

さて、便利に聞こえる成年後見制度ですが、「利用しやすいかどうか」という点で問題があります。

まず、家庭裁判所に申し立てる審判では、膨大な書面を提出しなければなりません。また、審判を申し立てて何週間かで結果が出るものではなく、3~6カ月程度かかるとされています。相続税支払いのために早く遺産を分割して売却したいなど、急を要する場合には、いつ審判がおりるか、相続人は気が気ではないでしょう。

また、成年被後見人(認知症の方)の保護者である後見人は、家庭裁判所が選任しますので、必ずしも家族が選任されるとはかぎりません。仮に、弁護士や司法書士など法律専門職が成年後見人に選任された場合、月々何万円かの報酬を支払う必要があります。

成年後見人が通常の業務を行った場合に支払われる基本報酬の目安は、以下の通りです。

「成年後見人の基本報酬額」

管理財産額1000万円以下の場合

月額2万円

管理財産額1000万円を超え5000万円以下の場合

月額3~4万円

管理財産額5000万円を超える場合

月額5~6万円

東京家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」を基に作成

 

この額だけではなく、成年後見監督人の報酬もかかることを頭に入れておかなければなりません。成年後見監督人とは、成年後見人が行った業務が妥当に行われたかどうか、不正はなかったかどうかチェックする役割を担う人です。この成年後見監督人が通常の業務を行った場合に支払われる基本報酬の目安は管理財産の額によりますが、月額1~3万円です。

また、法定後見制度の利用は、費用面以外にも面倒なことがあります。仮に、家族が後見人に選任された場合、利益相反取引となる行為は、特別代理人を選任する必要があります。たとえば、先ほどのケースでYが後見開始の審判を受け、AがYの後見人となった場合で考えましょう。YもAもXの相続人であり、Aが自分の利益をはかるために、Yを代理して遺産分割や相続放棄をする可能性もあり、このような場合、AはYを代理することはできず、Yのために特別代理人選任を家庭裁判所に申し立てなければならないのです。

このような問題点があり、成年後見制度の利用者数は、平成30年12月末日現在で約22万人に留まっています。冒頭のグラフのとおり、2015年現在の認知症の推定患者数約1000万人と比べ、これは非常に少ない利用数と言えるでしょう。

意外と知らない任意後見制度

今までお話ししてきた制度は、「法定後見制度」ですが、意外と知られていない制度に「任意後見制度」があります。法定後見制度との大きな違いは、「判断能力がある内に、判断能力が衰えた時に備えて任意後見人を選んでおくことができる」という点です。

親と相談! 任意後見契約

たとえば、親が「もし自分が認知症になったら財産の管理を頼む」と長男に言っていたとしましょう。この場合に実際に親が認知症になったとき、長男が自由に親の財産を管理することはできません。先ほどお話した法定後見開始の審判を受けなければ、法律上、代理権が認められないからです。

このようなケースで、子が親と相談して利用を検討すると良いのが、任意後見契約です。任意後見契約には、さまざまな内容を盛り込むことができます。たとえば、不動産等すべての財産の管理、金融機関の委任者名義の預貯金の管理、家賃や公共料金等の支払い、生活に必要な資金や物品の管理、保険契約などを挙げることができます。

そして、任意後見契約に盛り込むことができる内容として重要なのが、「遺産分割の協議、相続放棄に関する事項」です。

任意後見契約とセットでおすすめ 財産管理等委託契約

任意後見契約は、財産管理等委託契約とセットで締結すると、任意後見契約の本人の利益に適います。

なぜなら、財産管理等委託契約は、「判断能力はあるが、病気やケガでからだが動かなくなったとき」に、財産管理を受託者に頼むことができるという契約だからです。先ほどお話した任意後見契約は、本人の判断能力が失われたときのみ威力を発揮しますが、財産管理等委託契約も任意後見契約とセットで締結しておけば、本人が判断能力はしっかりしていても、身体的な理由で財産管理ができなくなったときに備えることができます。

任意後見契約の手続き

では、任意後見契約を締結するには、どのような手続きをすればよいでしょうか?

任意後見契約は、委任者となる親と受託者となる家族がともに公証役場に赴き、公証人に契約内容を相談したうえで、公正証書により契約する必要があります。財産管理等委託契約もセットで契約することを公証役場ですすめられますので、両方の締結を検討すると良いでしょう。

なお、財産管理等委託契約は、必ずしも公正証書による必要はありませんが、公正証書により作成してもらうことで、信用性も高く、後々のトラブル回避にも役立ちます。

この公証役場での手続きの費用は、公正証書の枚数などにより変動がありますが5万円前後を見ておくとよいでしょう。

家族が納得する制度を選ぶ

ここまで、法定後見制度と任意後見制度、財産管理等委託契約について見てきましたが、最近は、親の財産の管理手法として家族信託も注目を集めています。どの制度にしても、それぞれの特徴を知ったうえで利用しないと、家族間のトラブルに発展しかねません。特に家族信託と呼ばれている手法は、財産の所有権を受託者に移転し運用するという手法なので、利用する場合は慎重に検討していただきたいと思います。

ぜひ一度、親・子両世代で、親が認知症になる時の備えをどうしたらよいか、話あってみてはいかがでしょうか?

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