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【看護師が解説】患者や家族を苦しめる「失語症」 ストレスを避け上手に付き合うには

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脳卒中の後遺症で起こりやすい失語症は、「話す」「聞く」といったコミュニケーションが難しくなる病気です。言葉に関連する他の病気と同じように思われがちですが、実は違います。失語症は、病状の特性からなかなか周囲に理解されにくく、家族が戸惑うことも少なくありません。失語症患者をサポートするために、家族にできることは何でしょうか?

この記事では、失語症の症状やリハビリ、失語症患者をサポートするときのポイントなどを解説します。

失語症の症状はその人によってさまざま

失語症とは、脳が何らかの原因によってダメージを受けることで、言葉に関する機能が低下する病気です。「話す」「聞く」「書く」「読む」といった、コミュニケーションに関連する一連の流れが難しくなります。主な原因には、脳卒中(脳出血や脳梗塞など)や事故による脳の損傷があります。

失語症は、脳が損傷を受けた部位によって、主に5つに分類されます。

1.ブローカ失語

脳の前側(前頭葉)にある「ブローカ領域」に障害があることで起こります。言葉を聞いて理解することはできるものの、話すことは難しくたどたどしい会話になってしまいます。

2.ウェルニッケ失語

ブローカ野の後ろ側にある「ウェルニッケ領域」に障害があることで起こります。言葉はスラスラ出てくるものの、意味をなさないことが特徴です。

3.健忘失語

言葉を理解でき、会話に問題もないものの、人や対象となる物の名称が出てこなくなり、コミュニケーションに支障をきたします。

4.伝導失語

言葉を理解でき、会話に問題もないものの、言葉の音を間違えて話す様子(「音韻性錯語」といいます)がみられます。たとえば、「みかん」は「ひかん」、「からす」は「はらふ」のように。話をしても相手に伝わりづらくなります。

5.全失語

コミュニケーションに必要な「話す」「聞く」「書く」「読む」全般が重度に障害された状態です。

 

このように、「失語症」と一言で言っても、単に「話せない」だけではなく、さまざまな症状があります。また、その人によって症状の程度も異なります。
厚生労働省の資料によると、失語症患者のうち日常生活が「困難」「やや困難」の人は、「話す」がもっとも困難であり、次いで「書く」「読む」「聞く」と続いています。

厚生労働省資料「意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する 意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する支援の在り方に関する研究(平成28(2016)年3月みずほ情報総研株式会社)|P19 図表 24 日常生活上の困難度(単数回答)」を基に作図

失語症から回復する人もいますが、完全に元の状態に戻るのは難しく、患者さんはリハビリ(言語療法)によって機能回復を目指しながら、失語症との付き合い方を身に着けていくことになります。

失語症のよくある勘違い

言葉に関する機能が低下する病気は、失語症だけではありません。症状もさまざまなので、他の病気と混同されるなど誤った印象をもたれがちです。
ここでは、失語症に関するよくある勘違いをまとめました。

1.構音障害や失声症と同じような病気?

失語症は話せないだけでなく、コミュニケーション機能全般が低下します。
脳卒中の後遺症で見られる構音障害は、口や舌の動かし方といった運動面が傷害されることが要因のため、言葉が出にくくなりますが、失語症とは異なります。失声症は、精神的ストレスで声が出なくなる症状で、脳に問題はありません。
これらの病気や症状は、「話すことが難しい」という共通点がありますが、まったく違うものです。

2.読み書きだけを訓練すればいい?

失語症では「聞く」「話す」などの機能も低下する場合があり、単純に読み書きの訓練さえすればコミュニケーションがとれるようになるとは限りません。人によって症状の程度も異なるので、専門家による診断やリハビリが必要です。

3.認知症のように、相手が話したことを理解できない?

失語症も認知症も脳の障害によっておこりますが、失語症の人が必ずしも理解できないわけではありません。上記アンケートの「話す」「聞く」に注目してみると、困難と答えた方の割合は「話す」が38.5%、「聞く」が9.8%と大きな差が見られました。
話す相手がたどたどしい言葉だった場合、つい「理解できていないのかな?」と思いがちですが、失語症患者のなかには理解できても話すことが難しい人がいます。ここが、「周囲に誤解されやすい病気」と言われるゆえんでもあります。
相手のことを「この人はどうせ話しても理解できないから」と決めつけ、横柄な態度をとることは、失語症患者を傷つけてしまうことになります。

失語症になったあとの変化 家族にとって負担を感じることとは?

失語症になるとコミュニケーションが難しくなりますが、それは近くで支える家族にとっても大きな問題です。具体的に家族はどのようなことにストレスを感じているのでしょうか。

厚生労働省の資料に、失語症患者の家族のストレスについて調査したものがあります。これによると言葉に関するストレスでは「本人の思いを推測すること」がもっとも多く、次に「本人の体調を推測する」が挙がっています。
なお、感情や認知面に関するストレスでは、「怒りっぽい」がもっとも多く、次いで「意見を聞き入れない」「行動を理解できない」となっています。
脳卒中を経験した人のなかには、性格が怒りっぽくなったり頑固になったりすることがあります。また、コミュニケーションがうまくとれないことに対する患者さん自身の不安やストレスが、こうした表現になっていることも考えられます。

厚生労働省 「「失語症の人の生活のしづらさに関する調査」調査結果(抜粋)|P59 図.65 本人の状態でストレスを感じていること、ことばについて、図.66 本人の状態でストレスを感じていること 感情や認知」を基に作図

これらの結果から、失語症はコミュニケーションがとりづらくなるだけでなく、失語症患者の体調にまで影響を及ぼしていることが分かります。さらに、「怒りっぽい」「意見を聞き入れない」といった性格の変化は、これまで築いてきた家族関係が悪化することにもつながります。

繰り返しになりますが、失語症はリハビリをしたとしても完全に元の状態に戻るのは難しい病気です。そのため、失語症を「治す」のではなく、「受け入れ、どのように向き合っていくか」という視点が必要です。

失語症の人と関わるときに家族が心がけたいこと

患者さんも家族も強いストレスをともなうのが失語症のひとつの特徴ですが、コミュニケーションの取り方や考え方を少し変えるだけで、双方の良好な関係を引き続き築くことができます。ここでは、そのポイントを解説しましょう。

患者さん本人の状態や症状を正しく理解する

言葉は理解できるけど話せない、話せるけど意味のない言葉になってしまうなど、その人によって症状はさまざまです。医師や言語聴覚士などの専門家に話を聞き、まずは失語症患者の状態や症状を正しく理解するようにしましょう。

失語症患者の自尊心を傷つけない関わり方をする

患者さん本人からなかなか言葉が出てこなかったとしても、聞いたことを理解できていないわけではありません。本人も、そのような自分の話し方にいらだちを感じていることも多いものです。こうした状況を理解し、患者さんとのコミュニケーションをないがしろにせず、これまでどおり、ひとりの家族として接する姿勢を忘れないようにしましょう。

本人のペースで会話を進める

なかなか言葉が出てこないとなると聞く側がもどかしく感じてしまうかもしれません。それでも焦らせるような声かけは禁物です。「ゆっくり話してもいいんだよ」という空気をつくることが大切です。
そのときの様子によって言葉が出てくるまで待ってみたり、なかなか出てこないときは予想して質問してみたり、さまざまな角度から意思疎通を試してみましょう。日々の生活のなかで本人のペースをつかみ、それに合わせることが大切です。

リハビリは無理強いせず、コミュニケーションを諦めない

「少しでもコミュニケーションがスムーズにいくように」と、リハビリに期待する家族もいますが強制は逆効果です。リハビリは長期戦です。一歩ずつゆっくり取り組むようにしましょう。
言葉がなかなか出てこないときは失語症患者を責めず、できるようになったことに目を向けてみてください。発症前の状態に戻らなくても、新たなコミュニケーション方法を確立できればよいのです。

コミュニケーションがうまくいかないときは、「いまはそういう状態なんだ」と、いったん受け止めることも必要です。そのうえで、コミュニケーションをとることを諦めず、理解しようとする姿勢を持ち続けましょう。

まとめ

コミュニケーションは、他者とのつながりを保つために必要不可欠なものです。
失語症になるとコミュニケーションがうまくいかず、家族や友人との関係性が変化し、生きる意欲が低下しかねません。まずは、失語症に対する理解を深めて、失語症患者の尊厳を保ちつつ病状に合わせたコミュニケーションをとることが大切です。

失語症の発症によって、家族にも生活の変化やコミュニケーションの難しさからくるストレスを感じやすくなります。この場合は、ひとりで抱え込まず、言語聴覚士に相談したり、患者会・家族会に参加して同じ環境の人と話したりするなど、周囲の人や制度を頼るようにしましょう。

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