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【医師が解説】"隠れ糖尿病"とも言われる「血糖値スパイク」 その原因と今日からできる自己対策

kurashino

「糖尿病」という病名を知っていても、「血糖値スパイク」という言葉は知らない、あるいは聞いたことがないという方は多いでしょう。
血糖値スパイクは"隠れ糖尿病"ともいわれ、動脈硬化のリスクが高まるおそれのある状態を指す言葉です。

中高年になると、気になる人も多くなる体調の変化ですが、今回はこの「血糖値スパイク」の原因と対策について、わかりやすく見ていきましょう。

血糖値と糖尿病

炭水化物を多く含むご飯やパンは、最終的にブドウ糖(グルコース)に分解され、小腸から血液中に吸収されます。血液中のブドウ糖の濃度が、「血糖値」です。
ブドウ糖は脳が唯一使うことのできるエネルギー源であるほか、神経や筋肉では素早く使えるエネルギー源として非常に重要です。

糖尿病とはどんな状態?

血液中のブドウ糖の濃度が上昇すると、膵臓からインスリンが分泌されます。インスリンによって、血液中からブドウ糖が細胞に取り込まれ、血糖値は低下していきます。
このインスリンが分泌されなかったり働きが悪かったりして、血糖値が下がらない状態が「糖尿病」です。血液中のブドウ糖が尿にも混ざり、甘いにおいがするため、この名がつけられました。
尿が増え、のどが渇くことも特徴で、古代エジプトでは「尿が多くなる病気」のことがパピルスに書かれており、これが糖尿病に関する最古の記述とされています。平安時代の貴族、藤原道長も日記に「のどが渇き、尿が多い」と記述があり、糖尿病を患っていたのでは、と考えられています。

この糖尿病は、大きく「1型」と「2型」に分けられます。
1型糖尿病は「インスリン依存型糖尿病」とも呼ばれ、インスリンを分泌する細胞が自己免疫によって破壊されることが原因です。一方、2型糖尿病は「インスリン非依存型糖尿病」と呼ばれ、遺伝や食べ過ぎ、運動不足などの生活習慣が重なることが原因です。

厚生労働省によると、2019年時点で20歳以上のうち、糖尿病が強く疑われる人は14.6%、糖尿病の可能性が否定できない人は12.7%、合わせて27.3%に糖尿病の疑いがあるとされています。(※1)

糖尿病の合併症

血糖値が高い状態が続くと、長い時間をかけて全身の大小血管を傷めつけ動脈硬化を起こすほか、目の網膜や腎臓、神経にもダメージを与え、下記に挙げるとおり、さまざまな合併症が起こります。

  • 脳梗塞
  • 心筋梗塞
  • 糖尿病性網膜症
  • 糖尿病性腎症
  • 糖尿病性神経障害
  • 認知症
  • 感染症

糖尿病の初期段階では、ほとんど自覚症状がありません。症状が出た時には、糖尿病が進行していることが多いため、定期的に健康診断を受けて、血糖値をチェックしましょう。

糖尿病の診断

日本では、40歳から74歳を対象に、メタボリックシンドロームに着目した特定健診が行われています。特定健診では、空腹時の血糖値のほか、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)と呼ばれる採血を組み合わせて診断します。

HbA1cは、過去2カ月ほどの血糖値の平均を示したもので、直前の食事の影響を受けません。ただ、HbA1cは血糖値の上昇・下降などの変動を把握できないという欠点があります。
ここで問題になってくるのが、「血糖値スパイク」です。

血糖値スパイクとは

通常、血糖値の変動はゆるやかです。しかし、食後に血糖値が急激に上がったり下がったりすることがあります。この状態を「血糖値スパイク」と呼びます。
スパイクとは「とげ」という意味で、血糖値のグラフを見ると、まさに「とげ」のように見えるため、このように名づけられました。

血糖値スパイクはなぜ起こる

加齢や肥満などで膵臓の能力が低下すると、インスリンの分泌量が減ったり、分泌のタイミングが遅れたりします。すると、細胞はブドウ糖を取り込むことができなくなり、食後の血糖値が急激に上昇します。急激に上昇した血糖値を抑えるために、遅れて大量のインスリンが分泌され、今度は血糖値が急激に低下する現象が「血糖値スパイク」です。空腹時の血糖値、HbA1cは正常であることも多いため、なかなか発見できず、見過ごされがちです。

図:血糖値スパイクのイメージ(筆者作成)

血糖値が乱高下すると、血管が傷つき動脈硬化を引き起こします。そして、心筋梗塞や脳梗塞をおこし、突然死のリスクが高まるため「隠れ糖尿病」とも呼ばれるようになりました。
そのほか、発がんリスクの上昇や、認知症リスクの上昇も指摘されています。(※2)(※3)

血糖値スパイクの診断

血糖値スパイクを調べるには、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)と呼ばれる検査が一般的です。75gのブドウ糖液を飲み、飲む前(空腹時)、飲んで30分後、60分後、120分後の4回、血糖値の測定をおこない、血糖値スパイクがあるかどうかを調べます。(※4)
また、Continuous Glucose Monitoring(CGM)と呼ばれる、小さなセンサーをからだに装着し、継続して血糖値をモニタリングする方法も開発されており、より細かい血糖値の測定が可能になりました。

血糖値の異常を指摘された場合は、検査の適応があるか医療機関に相談しましょう。なお、CGMの一部はネット通販などで自費購入することも可能です。

血糖値スパイクを抑えるには

血糖値の急激な上昇を防ぐには、食事と運動が重要です。

食事

野菜を食べると、食材に含まれる食物繊維が糖質の消化・吸収を遅らせ、食後の血糖値が上がりにくいと言われています。また、ご飯の前に魚や肉を食べても、食後の血糖値が上がりにくくなると言われています。炭水化物をドカ食いするのではなく、おかずと組み合わせてバランスよく食べましょう。このほか、血糖値の上がりやすさを示すGI(グリセミック・インデックス)を参考に食品を選ぶこともおすすめです。パンなどでは低GIを売りにした商品も増えており、活用できます。

朝食を抜くと、朝食を食べた場合よりも昼食後や夕食後の食後血糖値が上昇することがわかっています。(※5)
また、同じエネルギー摂取量であれば、ボリュームのある朝食と軽めの夕食をとることで、昼食後の血糖値の上昇を抑えられると言われており、食事をとるタイミングも重要です。(※6)

運動

運動のなかでも特に有酸素運動は健康維持を考えるうえでとても重要です。食後の短い時間の運動でも血糖値を下げる効果があるほか、1日3,000歩程度のウォーキングでも脂肪を燃焼させ、インスリンの効果を高めて血糖値を下げやすくなると言われています。(※7)(※8)
また、筋力トレーニングは筋肉量を増やし、基礎代謝を上げ、血糖値の上昇を緩やかにします。年齢とともに筋力は低下するため、有酸素運動とともに週2~3回、適度な筋力トレーニングを行いましょう。

食事、運動とも継続が重要です。無理の無い範囲で行うことができる食生活の改善や、運動習慣の設定を心がけましょう。

血糖コントロールを知って、糖尿病対策を

血糖値が高い状態が続く糖尿病以外にも、急激な血糖値の変化は血糖値スパイクとしてさまざまな健康リスクがあることが分かってきました。
食事と運動の双方で対策をおこない、上手に血糖コントロールをすることで、健康な身体を維持しましょう。

※1 厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告|P161 第 53 表 「糖尿病が強く疑われる者」及び「糖尿病の可能性を否定できない者」の状況-糖尿病が疑われる者の状況,年齢階級別,人数,割合-総数・男性・女性,20 歳以上

※2 Gapstur SM, Gann PH, Lowe W, et al: Abnormal glucose metabolism and pancreatic cancer mortality. JAMA 283: 2552-2558, 2000.

※3 Abbatecola AM, Rizzo MR, Barbieri M, et al: Postprandial plasma glucose excursions and cognitive functioning in aged type 2 diabetics. Neurology 67: 235-240, 2006

※4 日本糖尿病学会編: 糖尿病診療ガイドライン 2016.東京, 南江堂, 2016, 560p.

※5 Jakubowicz, D. et al. Fasting until noon triggers increased postprandial hyperglycemia and impaired insulin response after lunch and dinner in individuals with type 2 diabetes : a randomized clinical trial. Diabetes Care. 38(10), 2015, 1820-6.

※6 Jakubowicz, D. et al. High-energy breakfast with low-energy dinner decreases overall daily hyperglycaemia in type 2 diabetic patients : a randomised clinical trial. Diabetologia. 58(5), 2015, 912-9.

※7 Dempsey, PC. et al. Benefits for Type 2 Diabetes of Interrupting Prolonged Sitting With Brief Bouts of Light Walking or Simple Resistance Activities. Diabetes Care. 39(6), 2016, 964-72.

※8 Umpierre, D. et al. Physical activity advice only or structured exercise training and association with HbA1c levels in type 2 diabetes : a systematic review and meta-analysis. JAMA. 305(17), 2011, 1790-9.

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