近年、生涯で一度も結婚せず、誰も頼る人がいない「おひとりさま」が増えています。ケガや病気で入院することになれば、身元保証人が必要です。高齢になるほど入院のリスクは高まりますが、誰にも保証人を頼めない場合はどうすればよいのでしょうか。
今回は、入院の際に身元保証人で困らないための対処法について説明します。
頼る相手がいない「おひとりさま」の割合は?
厚生労働省の資料によれば、50歳時の未婚割合の推移は以下のとおりです。
厚生労働省「令和2年版 厚生労働白書 50歳時の未婚割合の推移」より引用
50歳時の未婚割合とは、50歳時点で一度も結婚したことがない人の割合です。50歳時で結婚経験がないと、独身で生涯を終える可能性が高いと考えられます。
50歳時未婚率は男女とも一貫して増加傾向にあり、2020年は男性26.7%、女性17.5%となっています。2040年には男性29.5%、女性18.7%まで増加する見込みです。
入院時に身元保証人が必要な理由
入院時には、ほとんどの医療機関で身元保証人が求められます。身元保証人の役割は、大きく「連帯保証」と「身元引受」の2つに分けられます。
- 連帯保証:医療費の支払いにかかる金銭保証
- 身元引受:意思疎通が困難な患者に代わる意思決定、死亡患者の引き取り等
以前は連帯保証と身元引受を区別せず、広く「保証人」として提示を求める医療機関もありました。しかし、近年では両者を区別し、連帯保証人と身元引受人をそれぞれ求められるケースが多くなっています。連帯保証人は患者と生計を別にする親族、身元引受人は同居の家族が引き受けるのが一般的です。
厚生労働省の「身寄りがない人の入院等に関するガイドライン」(※1)によれば、医療機関が連帯保証や身元引受に求める機能・役割として以下の事項を挙げています。
- 緊急連絡先
- 入院計画書についての理解
- 入院中に必要な物品の準備
- 入院費の支払い
- 退院支援
- 死亡時の遺体・遺品の引き取り・葬儀等の対応
本人の判断能力が不十分な場合、身元引受人が治療の経過等について説明を受け、本人の代わりに意思決定を行うケースがあります。入院費用は高額になることもあるため、患者が払えなくなったときの備えとして連帯保証人が求められます。
身寄りがない入院患者が死亡した場合、身元引受人が遺体や遺品の引き取りなどの対応を行います。
おひとりさまが入院するときの問題点
おひとりさまが入院するとなった場合に気にかかることとして、大きく3つが挙げられます。
ひとつは、身元保証人を頼める人がいないことです。いざ入院となった際に、身元保証人を頼める人がいないと入院を断られるケースがあります。独身で周囲に頼れる人がいなければ、誰に頼めばよいのか、困ってしまうことでしょう。親族や友人、知人がいたとしても、よほど近しい間柄でなければ気軽に相談できないでしょう。
2つ目は、身元保証人を頼みにくいです。上記とも関連してきますが、体調悪化などで病院から急な呼び出しがあれば、身元保証人に大きな負担をかけてしまいます。複数回入院する場合は、その都度お礼をするなどの気遣いも必要です。身元保証人を引き受けてくれる親族や友人、知人がいたとしても、頼みにくいと感じるかもしれません。
そして、3つ目は、入院することを知られたくない場合に無理が生じることです。ケガや病気の内容によっては、入院することを周囲に知られたくないと思うこともあるでしょう。しかし、身元保証人をお願いするとなれば、入院の理由を隠すわけにはいきません。相談する相手によっては、周囲に知られてしまう恐れがあります。
入院時に身元保証人を頼める人がいない場合は
入院となったときに、身近に頼れる人がいない場合はどうすればよいのでしょうか。ここでは、入院時に身元保証人を頼める人がいないときの対処法を4つ紹介します。
1.連帯保証人以外の選択肢がないか医療機関に確認する
身近に頼れる人がいない場合は、連帯保証人以外の選択肢がないかを医療機関に確認しましょう。総務省の資料(※2)によれば、連帯保証人の提示が困難な患者に対して、以下のような方法を用意している医療機関もあります。入院前に連帯保証人以外の選択肢を用意しているかを確認しておくことが大切です。
クレジットカード番号の登録
クレジットカード番号の登録は、入院費用の支払方法としてクレジットカードを選択し、病院にカード番号を登録すれば連帯保証人が不要となる方法です。まとまった現金を準備する必要がないのもメリットです。
入院預り金(入院保証金)
入院預り金は、入院時に病院から提示された預り金を払い、退院時に差額を精算する方法です。病院側は未収金の発生を予防できるため、患者は連帯保証人の提示が不要となります。
保証会社の利用
病院が提携している民間の保証会社を利用する方法もあります。連帯保証人を提示できない場合、所定の保証料を払うことで一定額までの債務を保証してもらえます。
2.自治体や地域包括支援センターに相談する
身近に頼れる人がいない場合は、自治体の支援窓口や地域包括支援センターに相談する方法があります。ちなみに、地域包括支援センターは、地域住民の健康維持や生活の安定のために、医療や福祉などで必要な援助・支援を担っている機関です。要介護認定やケアプランの作成だけでなく、さまざまな相談に対応しています。
どこに相談したらよいかわからないときは、自治体や地域包括支援センターの相談窓口に連絡してみましょう。
3.成年後見制度を利用する
成年後見制度とは、判断能力が不十分となった人を支援・保護するための制度です。
病気などで判断能力が低下すると、財産管理や入院、介護サービス利用の手続きなどを自分で行うのが難しくなります。成年後見制度を利用すれば、判断能力が不十分となったときに後見人のサポートを受けられます。
成年後見制度には、「任意後見制度」と「法定後見制度」の2つがあります。
任意後見制度:十分な判断能力を有するうちに任意後見人や委任する事務の内容を定めておく制度
法定後見制度:本人の判断能力が不十分になった後に、家庭裁判所が成年後見人を選任する制度
成年後見制度を利用することで、身元保証人に求められる役割を部分的にカバーできます。
結果として、入院の際に身元引受人の提示が不要となる可能性も考えられます。
4.民間の身元保証サービスを利用する
身元保証人を頼める人がいないときは、民間の身元保証サービスを利用する方法もあります。入院や介護施設入所時の身元保証、遺体の確認・引き取りといった死後事務などを任せられます。身元保証人を誰かにお願いする必要がなく、死後の手続きまで任せられるのがメリットです。
ただし、民間の身元保証サービスは、事業者によって料金体系やサービス内容が異なります。なかにはまとまった費用がかかるところもあるため、利用は慎重に判断しましょう。
まとめ
入院の際に身元保証人で困らないようにするには、元気なうちに情報収集をして対策を考えておくことが大切です。まずは連帯保証人以外の選択肢がある病院を探したり、困ったときに相談できる窓口を調べたりすることから始めましょう。