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親がアルツハイマーから「物盗られ妄想」に 介護家族が身につけるべき対処法とは

kurashino

認知症の症状のひとつに、お金や財布などの大事なものを盗まれたと訴える「物盗られ妄想」があります。
実際に盗難に遭ったわけではないのに、本人は盗まれたと勘違いをして身近な人を犯人だと思い込んでしまいます。関係のない人を犯人呼ばわりしたり、周囲に言いふらしたりするため、ご家族は翻弄されて大変な思いをすることも......。

この記事では、親や配偶者の物盗られ妄想に悩むご家族に向け、原因や上手な対応方法、解決への糸口を解説していきます。

物盗られ妄想とは

物盗られ妄想とは具体的にどのような症状なのでしょうか。その特徴を詳しく挙げてみます。

物盗られ妄想の症状

実際には盗まれていないものを、本人が「盗まれた」「奪われた」と思い込んでしまう症状を「物盗られ妄想」といいます。
東北精神神経学会総会で発表された仙台市立病院の資料によると、盗まれたとされる物品でもっとも多かったのはお金や財布でした。ほかには、指輪や時計などの貴重品、洋服やバッグなどの身の回り品、食品などがありました。

▼盗まれた物品一覧(人数)※重複あり

お金・財布

20人

特定の物品

(指輪・時計・カメラ・バッグ・クラフトドール・着物・寝巻き・タオル・杖・包丁・冷蔵庫の中身・ウイスキー・牛乳・クリーム・体温計・墓石)

19人

不特定の物品

14人

通帳

5人

印鑑

1人

保険証

1人

不明

2人

仙台市立病院医誌「老年期痴呆の精神病理(第4報) 物盗られ妄想|表3.盗まれた物品一覧(人数)」の情報を基に作表

一方、物盗られ妄想で犯人だと疑われるのは、「嫁」「息子」「妻」といった同居家族がもっとも多くなっています。
同居家族以外の特定の人物のケースや、泥棒に盗まれたと訴えるケースもあるものの、まずは身近な人間が疑われやすいというのが物盗られ妄想のひとつの特徴といえるでしょう。

▼犯人とされた人(人数)※重複あり

自宅

同居親族

(嫁・息子・孫・妻・母・夫)

15人

他人

(○○さんのお母さん・アパートの隣人・植木屋・檀家・近所の人・友人)

6人

泥棒

6人

別居親族

(養子夫婦・妹・姪・息子夫婦・娘)

5人

不明

12人

病棟

他の患者

2人

泥棒

1人

不明

1人

仙台市立病院医誌「老年期痴呆の精神病理(第4報) 物盗られ妄想|表4.犯人とされた人(人数)」の情報を基に作表

本人は本気で盗まれたと思っているため、家族が違うと説明してもなかなか聞き入れません。そして、見つかるまで被害を訴え続けたり、犯人だと思い込んでいる相手を責め立てて大騒ぎしたりする人もいます。
とくに、無くなったものがお金や貴重品だと怒りや訴えがより激しくなる傾向にあるため、対応に頭を悩ませるご家族も多いでしょう。ときには、「〇〇を盗まれた」と警察に通報してしまうケースもあり、物盗られ妄想があまり頻繁に起こるようだと、ご家族は気が気ではないと思います。

このように、物盗られ妄想は対応がとても難しく、また警察や近所の人を巻き込む大ごとになってしまうこともあり、家族や周囲の人間にとっては非常に悩ましい問題だといえます。

物盗られ妄想の症状を軽減していくには、なぜ物盗られ妄想が起こるのか、その原因や背景を知ることが大切です。

物盗られ妄想はなぜ起こる?

物盗られ妄想は、とくにアルツハイマー病の人によく見られる症状だといわれています。アルツハイマー病は認知症のなかでもっとも多く、記憶をつかさどる「海馬」にダメージを受けることで徐々に脳が委縮し、症状が進行します。

アルツハイマー病の初期症状は「もの忘れ」が多く、日常生活の中で自分の言ったことを忘れてしまったり、探し物が多くなったり、物の名前が出てこなくなったりすることが増えてきます。
個人差はありますが、物盗られ妄想も一般的におおよそ2~3年あたりの初期段階に出現することが多いといわれています。

認知症になると、「記憶障害」「判断力」「思考力」の低下にともない、新しいことが覚えられなくなったり、これまで行っていた家事などができなくなったりしてきます。これらに対する不安や恐怖、大切な人との別れ、からだの衰えによる喪失感などが重なり、高齢になるほど感情が不安定になってきます。こうした不安や喪失感があると、物盗られ妄想が強く出てしまうことがあります。

また、物に対する感覚が今の若い人と異なる点も忘れてはなりません。高齢者が生きてきた時代は今のように物が豊富ではありませんでした。そのため、ひとつの物を長く大事に使う習慣が身にしみついている人が多いとされています。
いまは物が壊れれば修理するよりも新品を購入したほうがお得になるケースもありますが、戦後の貧しい時代には物を修理しながら何年も大切に使い続けるのは普通でした。それだけ物に対する思い入れは深いものがあるといえるでしょう。

このような潜在意識があるため、大切にしていた物が無くなったときに「盗まれた」と思い込んでしまうのも無理はないかもしれません。また、過去にお金で苦労をしたことがある人ほど、物盗られ妄想が出やすいともいわれています。

物盗られ妄想へのベストな対応法

親や配偶者など身近な人に物取られ妄想の症状が出てきたら、以下のような対応を行うとよいでしょう。

最初から否定しない

もし違うことがわかっていても、相手の「盗まれた」という訴えを真っ向から否定するのはおすすめできません。
相手は必死の訴えを否定されると、ますます怒りや不信感が増して、激しい言い合いになったり、興奮して危険な状況を招いたりすることも考えられます。否定したい気持ちをグッとこらえ、まずは相手の話に耳を傾けてみましょう。

よく話を聞く

何が無くなったのか、どこに置いておいたのか、いつ頃から無くなったのかなど、相手の話をよく聞くようにしましょう。こちらがしっかり聞く姿勢を見せることで相手の気持ちを落ち着かせ、今の状況を少しでも冷静に見つめてもらうことが大切です。また、できるだけ具体的に聞くことで、無くなった物を探し出すヒントを得やすくなります。

無くなった物を一緒に探す

「〇〇に盗まれた」と特定の人物を名指ししても、まずは本人の部屋の引き出しやベッドの中など身の回りを一緒に探してみます。
筆者の経験では、枕の下に隠していたものがずれてベッドの下に落ちていたり、掛け布団や毛布に紛れ込んでいたりするケースも多くありました。
ポイントは、できるだけ本人に見つけてもらうか、相手が見ている前で見つけ出すこと。本人が見ていないと、「やっぱりあなたが盗った」と、こちらのせいにされてしまうこともあります。見つかったら本人を責めずに、「見つかってよかったね」など安心できる言葉をかけるようにしましょう。

他のことに気をそらす

物盗られ妄想を定期的に繰り返すような場合は、うまく気をそらして他のことに意識を向けるとよいでしょう。お孫さんの話や好きな歌手や俳優の話、またこちらから何か相談ごとを持ちかけるのもよいかもしれません。普段から物盗られ妄想に悩んでいるお宅であれば、相手が興味を引かれそうな話題を前もって用意しておくのがおすすめです。

収納場所を分かりやすくする

物盗られ妄想は、物さえ無くならなければ未然に防げるという側面もあります。そのため、部屋や収納場所を見直して、パッと見てどこに何があるのか分かりやすく配置したり、引き出しにラベルを張ったりするのも効果的です。本人のためだけでなく、同居する家族のためにも、分かりやすい収納を心がけましょう。

どうしても手に負えない......と感じたら?

物盗られ妄想が起きたとき、自分や家族が疑われるとつい正面から対峙してしまうこともあるかもしれません。ですが、できることならサラリと受け流し、なるべくならこころにわだかまりを残さないことが望ましいと言えます。ただ、物盗られ妄想により本人が過度に興奮状態に陥ったり、疑っている相手に対し攻撃的になったりして対応に困る場合は、ケアマネジャーや医療機関へ相談しましょう。

物盗られ妄想は本人にとっても辛い状況であり、怒りがエスカレートすればケガなどのトラブルにもつながりかねません。家族では手に負えないと感じたら、病院で診断を受けて治療を受けることも検討しましょう。

まとめ

物盗られ妄想は、家族間の揉めごとの原因にもなりかねず、非常に厄介なものだといえます。身に覚えのないことで泥棒呼ばわりされたり、ご近所に迷惑をかけたりすると、家族としてはやるせない気持ちになるかもしれませんが、そんな時はぜひひとりで抱え込まずに専門家のアドバイスを受けてください。必要があれば、適切な治療や支援を受けて、物盗られ妄想による悩みやトラブルを取り除いていきましょう。

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