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認知症の親が介護拒否 健康と安全のために家族ができることとは

kurashino

認知症と介護拒否の関係

認知症の患者数は、徐々に増えています。2012年に65歳以上の高齢者の約7人に1人とされていた認知症は、2025年には約5人に1人になると、内閣府は予想しています。

内閣府 「平成29年版高齢社会白書(概要版) 3 高齢者の健康・福祉 第1章 高齢化の状況(第2節 3)」のを基に作図

認知症の症状には、大きく分けると「中核症状」と「行動・心理症状(周辺症状)」の2つがあります。

中核症状とは、認知症そのものによっておこる症状で、記憶障害や判断力低下などが挙げられます。一方、行動・心理症状は、下の図で表しているように、本人の性格や環境などの要因が重なっておこる症状であり、認知症の人全員に必ず起こるとは限りません。幻覚や徘徊などがあり、介護拒否もそのひとつです。

厚生労働省 「政策レポート 認知症を理解する」の情報を基に作図

認知症によって介護拒否がおきる原因はさまざまですが、主なものとして「認知機能の低下」が挙げられます。認知機能とは、ものごとを理解し適切に判断する機能のことで、認知症になると低下します。
もう1つ挙げるとすれば、行動・心理症状のひとつである「不安や怒り」です。認知症では気分のムラがおきやすく、そのときの気分で介護を拒否してしまうことがあります。このほか、羞恥心や人の世話になりたくないなど、本人の気持ちも関係します。
認知症による機能低下を本人が受け入れられないと、介護拒否につながります。

介護拒否の原因とよく見られるシーン

「介護拒否」と一言でいっても、本人の状況や環境によってさまざまなケースがあります。ここでは、介護拒否でよく見られるシーンを、原因別にまとめました。

1.認知機能の低下

食事を例に挙げると、「目の前にあるものを食べ物と認識できない」「箸をどう使ったらいいのか分からない」という状態になります。そのため、目の前にただ食事を用意されただけでは自分で食べ進めることができず、周りからは食事を拒否しているように見えます。

2.抑うつや怒りなど「気分のムラ」

抑うつとは、気分が落ち込んでやる気がおきない状態です。抑うつ状態になると食欲がわかないので、食事量が減ります。
怒りの場合は、気分がたかぶりコントロールできず、食事を介助しようとすると怒って拒否してしまいます。

3.羞恥心がある

羞恥心は、認知症に関わらず誰にでもある感情です。それなのに「認知症だから」と介護者が配慮せず、一方的に介助することで介護拒否がおきやすくなります。特に、おむつや衣類の交換、入浴のときにみられます。

4.人の世話になりたくない

誰しも老いを認めるのは抵抗があるものです。認知症の場合も、認知機能が徐々に低下するのを受け入れるのには葛藤があります。たとえば、1人で入浴できると思っているので介助しようとすると嫌がる、歩くときは付き添いが必要なのに1人で歩いてしまう、などの状況がおこります。

介護拒否を理解するために、本人の気持ちを考えてみましょう

介護拒否にあうと、「なぜ言うとおりにしてくれないのだろう」「どうやったら分かってくれるのだろう」と、どうにかして介護拒否をなくそうと必死になってしまいます。そんなときは一歩引いて、認知症の人の視点から考えてみましょう。

よく「認知症になったら何も分からなくなる」と思われがちですが、実は違います。認知症の人は、少しずつできないことや分からないことが増えるたびに不安を感じ、葛藤しています。

ここで、認知症の人の気持ちを紹介しましょう。厚生労働省が発行するガイドブック「本人ミーティング」からの引用です。

「ちょっと離れたところでね、おかしいんちゃうと言われた。そういうのは聞こえる。」
「一人でいると不安。特に夜。不安でどうしようもない日がある。」
「だんだんできなくなって情けない。だけどできることをやっていると楽しくなる。元気がでてくる。」

厚生労働省 「認知症のわたしたちが集い、語り合う、やさしいまちをいっしょにつくろう 本人ミーティングガイドブック 20P

この文章から、認知症の人たちは不安とやるせなさを抱えていることが分かります。そして、周りの人の言動によって傷ついています。介護拒否に対しても、本人の気持ちを考えたうえで介護することが大切です。

介護拒否への対応

これまでの内容をふまえつつ、介護拒否に対して家族はどう対応したらいいのかを、まとめました。

1.本人の気持ちを認める

せっかく手助けしようとしたのに拒否されると、がっかりしてしまうものです。しかし、無理に介護しようとせず、本人が拒否した気持ちをいったん受け止めましょう。
自分の気持ちを分かってもらえないとより不安になるので、「そうなんだね」「今はやりたくないんだね」と、まずは受け止める姿勢が大切です。

2.時間をおく

先述のとおり、認知症の症状には気分のムラがあります。拒否した原因は、もしかしたら気分がのらないだけかもしれません。急を要さないことであれば、少し時間をおいてから、もう1度声をかけてみましょう。

3.できるところは本人に行ってもらう

介護は、何でも手伝えばいいというものではありません。できない部分を手伝うことで、残された機能を維持できますし、本人の自尊心を守ることにもなります。
たとえば、歩行と立ち上がりが不安定な人の入浴の場合、ズボンの上げ下ろしや浴槽をまたぐ動作は介助するものの、その他は本人が行う、といった具合です。状況を見ながら、必要な部分に対し、介助を行いましょう。

4.なぜ介護拒否がおきているのかを知り、視点を変える

介護拒否の原因が分かれば、対処するうえでのヒントになります。たとえば、歯みがきを拒否していたとしたら、その理由を考えてみましょう。洗面所に行くのが面倒、歯ブラシが硬くて痛いなど、理由があるかもしれません。この場合は、自室で歯みがきができるように洗面器やコップを準備する、歯ブラシを柔らかいものに変えるなどの対処法があります。
「こうあるべき」という視点を変えて、本人がやりやすいように柔軟に対応しましょう。

5.代替案を提案する

介護拒否には、別の選択肢を提案するのもおすすめです。もしも、「お風呂には入らない」と言われたら、「じゃあ、身体を拭くのはどう?」と提案してみましょう。意外と応じてくれることがあります。

家族が自分自身を大切にするために

ここまで認知症による介護拒否について、本人に寄り添いながら対処する方法をお話ししました。しかし、実際に介護する家族にとってはストレスも多く、イライラすることもあるでしょう。ここでは、家族の負担を軽くするにはどうすればいいのか考えてみました。

1.ケアマネジャーや介護サービス担当者に相談する

ケアマネジャーをはじめ、介護で関わるスタッフは"家族の応援団"です。悩みやつらい気持ちなど、何でも話してください。気持ちを吐き出すことで楽になれますし、いいアイディアがあれば提案できます。

2.介護サービスを頼る

「ちょっと疲れたな」「少し休みたいな」と感じたときは、介護サービスを頼りましょう。以下の表の通り、介護にはさまざまなサービスがあります。途中で変更も可能なので、「認知症が進行した」「家族の状況が変わった」など、そのときの状態や都合にあわせて選びましょう。
なお、要介護度によっては利用できないサービスもあります。利用にあたっては、ケアマネジャーに相談するとよいでしょう。

厚生労働省 「仕事と介護 両立のポイント 19P」の情報を基に作表

なかには、「介護スタッフに迷惑をかけるのではないか」と、気を遣う家族もいます。私自身も家族から「他人様にお世話になるなんて申し訳ない」と涙ながらに謝罪されたことがあります。ですが、心配しないでください。介護スタッフはプロなので、知識と経験によるスキルをもっています。介護サービスは、遠慮なく利用しましょう。

なお、羞恥心が強い場合は、同性の介護者のほうが受け入れやすい傾向があります。事業者の状況にもよりますが、こうした配慮も考えられると、なお安心してサービスを利用できます。

3.自分の時間をつくって息抜きする

なかなか難しいことかもしれませんが、できるだけ自分の時間をつくるようにすると、気持ちに余裕がうまれます。少しのあいだ、家族にみていてもらう、通所サービスを利用するなど、周りの協力を得て息抜きしましょう。

4.「そういう日もある」と受け止める

介護拒否は、その日の気分に左右されることもあります。長く続けば問題ですが、1回くらい食事や入浴ができなくても「大丈夫」と、おおらかな気持ちで対応しましょう。

5.施設入所を検討する

在宅介護が難しければ、施設への入所を検討し、ケアマネジャーに相談しましょう。ただし、入所までに時間がかかる場合もあるので、早めの相談をおすすめします。
入所できる施設には、特別養護老人ホームのほかに認知症の人たちが共同生活を送るグループホームなどもあります。

まとめ

介護拒否は、本人の気持ちやそのときの状況など、さまざまな要因によっておこります。まずは認知症を理解し、なぜ拒否をするのか本人の気持ちを考えたうえで対応を考えましょう。

同時に、介護をする家族の負担を軽減することも大切です。介護に一生懸命で自分は二の次になりがちですが、そんな毎日だと疲れてしまいます。

介護の時間と自分を大切にする時間の中間点を見つけて、バランスをとるようにしましょう。

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