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認知症の親の徘徊 家族ができる対処法と行政による支援策とは

kurashino

これから認知症の親の介護をはじめる人のなかには、「徘徊」に大きな不安や悩みを抱えている方も多いでしょう。
認知症の高齢者が徘徊によって行方不明になってしまうことは、決して珍しいことではありません。

警察庁の調べによりますと、認知症の高齢者が徘徊によって行方不明になった人数は、平成24年の9,607人から、平成30年には1万6,927人にのぼっています。

警察庁「平成30年における行方不明者の状況について (全体のポイント)|図表1 行方不明者の推移」の情報を基に筆者作図

このデータをみていると、他人事ではないと感じる方も多いのではないでしょうか。

また徘徊によって、交通事故や鉄道事故などに巻き込まれるリスクも高いと言えます。交通事故による死者数の統計をみていると、高齢者の割合がもっとも高いことが分かっています。(※1)
高齢者になると身体機能が低下します。さらに認知症であれば判断能力が低いので、十分な危険予測できず、事故に巻き込まれてしまうリスクがあるのです。

しかし、認知症の高齢者に対して、自宅にいるように伝えても徘徊が止むことはありません。家族や介護者が休んでいる夜間に徘徊されてしまうことも少なくないのです。

わたしはケアマネジャーとして高齢者や家族と関わるなか、認知症介護での徘徊に関する悩みも数多く解決してきました。その経験から、認知症の徘徊の原因についてお伝えし、対応の考え方、具体的な対策まで事例を交えてお伝えしていきます。

徘徊の原因~徘徊する理由を知っておこう

徘徊の原因、それは認知症の特徴にあると言えます。その特徴をつかむことによって、徘徊に対してうまく対処することができるようになります。

認知症による徘徊の特徴には下記3つのポイントがあります。

場所や時間などが分からなくなってしまう「見当識障害」

ここがどこなのか分からなくなる、認知症の中心的な症状(中核症状)を「見当識障害」と呼んでいます。たとえば、友人宅に行こうと考えて自宅を出たものの、どこにいるのか分からなくなり、しかも自宅に戻れないということが起きてしまいます。

見当識障害では、場所が分からなくなるだけではなく、時間的な感覚も分からなくなることが特徴です。そのため真夜中に「買い物に行ってくる」といって出かけてしまうようなことも起きてしまいます。

物忘れや過去と今の区別がつかなくなる「記憶障害」

認知症の症状においては記憶できなかったり、記憶があいまいになったりしてしまうことがあります。また、過去の記憶はしっかりと覚えていることが多いことから、現在の状況と判断つかないようなことが起きてしまうことがあります。たとえば、サラリーマン時代の記憶を急に思い出し、「仕事に行ってくる」などといって出かけるようなことがあります。すでに退職しているということを伝えても取り合わず、遅刻するからと言って聞く耳を持たないことも多いのです。
夜間に家族の知らない間に出かけてしまい、行方不明になってしまうこともあります。

今までできていた適切な判断ができなくなる「判断力の低下」

徘徊の理由として、「自分自身の居場所を探している」ことが挙げられます。
「現在生活している場所がなんとなく居心地が悪い」「自分の家ではないように感じる」そのような状況が徘徊につながることがあり、たとえば、子どもに引き取られて同居している場合、あるいは施設で生活している場合によく見られます。

高齢者本人にそのような意識がある状況においては、周りの家族が「ここは自分の家だから」と伝えたとしても徘徊がおさまらないことも珍しくありません。そのため、どうすれば本人の居場所として認識できるようになるかを考えることも必要となります。

徘徊への適切な対応~危険回避する考え方

徘徊への適切な対応と危険回避の考え方についてお伝えします。

徘徊する高齢者に対して「外に出たらダメ」という声かけや行動制限は混乱を招き、さらなる問題行動が現れる原因となってしまうことがあります。本人が安心して生活ができるような工夫が必要です。

「徘徊する場合」「外に出た場合」「行方が分からない場合」の3つのパターンに分けて、いくつかの考え方をご紹介していきます。

徘徊の状況

危険回避する考え方

徘徊する場合

  • 本人のストレスにならないように工夫する
  • 「出かけたらダメ」という声かけは不満となる可能性が
  • やむを得ない場合は動ける空間において施錠も
  • ほかに関心を持ってもらう声かけを
  • 日中はデイサービスに行き、夜間はしっかりと眠れるように

外に出た場合

  • ドアにチャイムをつけるなど気付くように工夫する
  • 外に出たら無理に戻るように促すのではなく、散歩などして気晴らしが必要

行方が分からない場合

  • 近所の人などの協力を得ておく
  • 地域包括支援センターなどと連絡を取り合う
  • 警察や役所など公的機関に連絡する

徘徊する場合

徘徊はただ単に外に出てしまうのではなく、さまざまな目的や要因がある行動です。高齢者本人は目的を果たそうとしているのですから、それを妨げようとすると大きなストレスとなってしまいます。
たとえば、真夜中に「仕事に行ってくる」と出かけようとした場合、本人は会社に行って仕事をしようとしているわけですから、「出かけたらダメ」「仕事なんてしていない」といった声かけは不適切なのです。
このような場合であれば、「まだ少し出かけるには早いですよ」「今日は、仕事は休みの日でしたよ」などと声かけすることも有効になります。

ただ、家族の対応にも限界があるでしょう。深夜などで目が届かない場合においては、二重ロックなどで施錠しておくことも事故リスクを軽減するためには必要です。この場合においても本人のストレスにはならないように、自宅内では行動できるように工夫しておくようにしましょう。

外に出た場合

高齢者本人がすでに玄関を出てしまったり、外出していたりするのを目撃した場合においては、無理に連れ戻すと本人のストレスとなってしまいます。本人には何か目的があるのですから、話を聞いてみて少し近所を散歩するなどの対応が必要となります。

「会社に行く」「買い物に行く」「探し物をしている」など、さまざまな理由を告げられますが、否定せずにまずはその内容を受け止めることが大事です。そして、一緒に歩いているなかで、別の話をすることによって、そちらに興味を持ってもらうことができます。たとえば「お腹は空いてませんか?」「自宅で一緒に食べましょう」などと声かけすれば、気分良く戻ってもらうことができるかもしれません。

外に出ることに気が付けるようにしておくことも大事です。センサーが反応してチャイムが鳴る機会を設置しておけば、急に外に出たとしても気付くことができます。

行方が分からない場合

少し目を離した瞬間に外に出てしまい、周りを探しても行方が分からないということもあるかもしれません。このときはまず、本人の好きな場所、よく行く場所などを探してみるようにしましょう。
また、近隣の方や地域の自治会、商店などに声をかけることによって、どちらの方向に進んでいったのか分かることがありますし、見つけた際には連絡がもらえることも期待できます。地域包括支援センターなど地域の福祉拠点に連絡しておけば、地域の介護サービス事業所に情報を伝えるなど、協力してもらえます。

行方が分からなくなった時に備え、本人の写真や服装、身長、年齢などの情報を用意しておくと便利です。そして、警察や役所など公的機関に連絡しておくことも必要です。

徘徊対策に便利な事例をご紹介します

サービスや社会資源

サービス内容

徘徊高齢者探索サービス

位置情報専用端末機の貸出し

配食サービス

自宅まで昼食を届ける(安否確認もあり)

体操プログラム

介護予防のストレッチや筋力アップの取り組み

認知症介護者家族会

認知症の家族を介護している家族が集まれる場所

認知症サポーター養成講座

認知症の理解や対応方法などの基礎を学べる講座

認知症による徘徊対応を介護者だけの手によって行うのは限界があります。
介護保険サービスを利用することはもちろんのこと、近隣住民、社会資源、徘徊対策グッズなどを利用することで、よりリスクを下げることを考えましょう。

どのように利用していくべきなのか、ここでは新宿区の取り組みを紹介します。

徘徊高齢者探索サービスの利用

新宿区では「徘徊高齢者探索サービス」として「位置情報専用端末機(GPS端末)」の貸し出しを行っています。小さな端末を高齢者本人が持っておくことによって、位置情報を役所が教えてくれたり、インターネットから自分で把握したりすることが可能です。
また有料でスタッフが駆けつけるサービスも行われています。

配食サービスの利用

昼食のお弁当の配達サービスです。ただ配達するだけではなく、安否確認も行われることが特徴です。チャイムを鳴らして本人に手渡しすることになっており、状況によっては室内に入って決められたテーブルまで持っていくこともあります。
安否が確認できない場合、家族や担当のケアマネジャーに連絡するなど、連携を図ることもサービスに含まれています。
他の自治体においても取り組まれているサービスですが、民間事業所も増えています。

体操などイベントの利用

新宿区では「新宿いきいき体操」として地域の高齢者を対象に介護予防の体操に取り組んでいます。日中に運動することによって夜間の睡眠につなげることができます。地域の高齢者とのつながりもできますので、何かの際に連携を図ることも出来るようになります。

認知症介護者家族会

地域において認知症の人を介護されている家族が集まり、さまざまな意見交換ができる場になっています。特に認知症の人を介護している家族は、どうしても地域との関わりが少なくなり、引きこもりがちになっていることが少なくありません。介護に行き詰まってストレスになってしまうことも多いので、このような関わりを持つことは、とても大事なことであると言えるでしょう。

認知症サポーター養成講座

講座の開講による認知症の基礎知識や対応方法などを伝えています。
これは、区独自の取り組みではなく、認知症の人が増えているなかで認知症を理解している人を増やしていこうとする厚生労働省の取り組みです。
認知症の人に対してどのように対応していけばいいのか、楽しく学ぶことができます。

まとめ

認知症介護を介護者だけが抱え込んでしまうことは、介護ストレスの増大につながり、精神衛生上においても、認知症の高齢者本人においても良いことはひとつもありません。しかし、認知症の特性を知りながら、適切な対応をしていくことで、事故リスクを下げることが可能です。また認知症を理解することは、介護を続けるうえでとても重要です。

介護を続けていくことは、ときとして大きなストレスを抱えることになりますが、認知症の症状が現れる原因などを理解することによって、認知症の本人がどのように考えているのかをつかむことができるようになります。理解すれば適切な対応方法につながり、認知症の本人も安心して過ごすことができるようになるのです。

認知症は誰もがなるおそれがあり、何も特別な病気ではありません。厚生労働省によりますと、認知症の発症者数は、令和7(2025)年には最大730万人に、令和42(2060)年においては最大で1154万人にまで増加すると考えられています。(※2)
このような状況を踏まえると、地域において認知症の人がどのようにすれば安心して暮らすことができるのかを考えることが大事になってきます。

認知症の人が安心できる家庭を築くにはどうすればよいのか――そう思いめぐらすことが支援の一歩となるでしょう。

※「令和2年度平均年収と学歴調査

※1 内閣府「令和元年交通安全白書|第1章 交通安全対策の取組の経緯と交通事故の減少」
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/r01kou_haku/zenbun/genkyo/feature/feature_01.html

※2 厚生労働省「認知症の人の将来推計について」
https://www.mhlw.go.jp/content/000524702.pdf

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