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認知症介護 ストレスで共倒れにならないために

kurashino

親の認知症が進むにつれて、「昔はこんな性格ではなかったのに......」「何度言ったら分かってもらえるの?」と、介護を担う側の子どもがイライラを募らせてしまうことがあります。両親に、つい辛く当たってしまう自分への自己嫌悪感やいつまでこのような生活が続くのだろう、という不安を感じることもあるでしょう。
しかし、介護者である家族がイライラしていると、介護されている両親自身も不安になり、さらに認知症の症状である問題行動が増えてしまうようになります。

物忘れや性格の変化は、認知症の症状によるものなのです。
厚生労働省の調査によると、認知症患者はどんどん増えており、今後も増大すると公表されています。

内閣府「平成29年版高齢社会白書(概要版) 3 高齢者の健康・福祉」の情報を基に作成

このデータによると、認知症患者は今年(2020年)、600万人を超え、2040年には800万人を超えると推定されています。認知症は誰でもかかるおそれのある病気だといえます。

介護でイライラしないためには、認知症を知ることが一番大事です。
わたしはケアマネジャーとして認知症高齢者や家族と関わるなかで、さまざまな介護の方法をご提案してきました。

その経験から、在宅で認知症の両親を介護している人が、どのようにすればイライラせずに介護ができるようになるのか、具体的な方法をお伝えしていきます。

認知症介護でイライラしないための認知症の基礎知識

認知症には、以下のようにさまざまな種類があります。

認知症の代表的な症状と、発症の割合

アルツハイマー型認知症

67.6%

脳血管性認知症

19.5%

レビー小体型認知症

4.3%

前頭側頭型認知症

1.0%

その他(アルコール性など)

7.6%

厚生労働省「認知症施策の総合的な推進について|P6.認知症の種類(主なもの)」の情報を基に作表

種類によって現れる症状に違いがあり、また病気の進行も異なりますから、症状を悪化させないための取り組みにも違いがあります。

ここでは認知症の種類によってどのような症状があり、どのような介護方法が必要になるのかお伝えしていきます。

アルツハイマー型認知症

認知症のなかでもっとも割合が高く、脳が委縮することによって発症することが特徴です。原因は脳内の異常なタンパク質であるとされています。

古い記憶は残されていることが多いのですが、新しい記憶はどんどん失われていきます。最初は軽度の物忘れ程度ですが、やがて親しい人を忘れるようになったり、今がいつなのか、ここはどこなのかが分からないようになったりします。そのため、繰り返し同じことを話したり、聞いたりすることがありますが、この場合、言い聞かせようとするのではなく、相手の意思を受け止めることが大事になります。

脳血管型認知症

脳梗塞や脳出血など脳血管に関する疾病によって脳の一部分が破壊されることで引き起こされる認知症です。脳血管疾患を引き起こす、生活習慣病などが原因となります。

脳の損傷を受けた部分に症状が現れることが特徴で、記憶障害や言語障害、マヒなどがみられます。

アルツハイマー型と違って、脳血管疾患の発症によって急激に症状が悪化します。脳血管疾患の再発を防止しながら、できることとできないことを理解することが大事になります。

レビー小体型認知症

「レビー小体」と呼ばれる異常なタンパク質が原因となって現れる認知症です。
症状が特徴的で、幻視(見えないものが見える)やパーキンソン病に似た身体症状(手足の震え、小刻み歩行など)によって転倒することが多くなります。
症状は経過によって変化するため、柔軟に対応することが大事です。また転倒による骨折を防ぐ取り組みも必要となります。

前頭側頭型認知症

脳の前頭葉や側頭葉において萎縮がみられる認知症です。「ピック病」と呼ばれることもあります。
以前と比べて人格が変わってしまうことが特徴で、軽度の時期には万引きをするなどの反社会的な行動が目立つようになります。落ち着きをなくして、バタバタするようなことも多くなります。強引に引き留めると、暴力を振るうことも。そのため、できる限り自分の意思で行動できるような工夫が必要です。

介護方法によって認知症が悪化してしまう?

厚生労働省 認知症の中核症状「認知症の中核症状とは」の情報を基に作図

認知症の症状には「中核症状」と「周辺症状」があります。(※1)
「中核症状」とは認知症で必ず現れる症状のこと、「周辺症状」とは状況に合わせて現れる症状のことを言います。認知症介護の方法が適切でなければ、問題行動として「周辺症状」が現れてしまいます。
ここでは、中核症状と周辺症状がそれぞれどのような症状なのか、どのような介護方法が適しているのかをお伝えします。

中核症状とは

脳の働きが悪くなる、脳の機能が低下してしまうといった認知症の主な症状を指します。「記憶障害」「見当識障害(時間や場所などが分からなくなる)」「言語障害」「理解力の低下」など、認知機能の障害が現れます。

記憶障害においては、直近の記憶を思い出せないことが目立つようになります。たとえば5分前に食事を済ませたのに「ご飯はまだ?」と催促されるようなことが起こります。また、時間の認識ができなくなり、夜中に起きだして「仕事に行ってくる」のように、出かけようとすることもあります。

介護において重要なポイントは、「単なる物忘れ」ではないということ。先ほどの食事の例でも、本人はご飯を食べた記憶が完全に抜け落ちていますから、「さっき食べたでしょ」と言われても本人は思い出すことはありません。そのようなやり取りが続いてしまうと、どんどん本人が混乱することになり、結果、周辺症状を引き起こすことになってしまうのです。

認知症になってもできることは多くあります。できる部分に着目して本人が生きがいを持って生活を送れるように工夫し、できない部分を補うような介護や支援を行うといいでしょう。

周辺症状とは

環境や人間関係によって引き起こされる症状を指しています。認知症の「中核症状」が現れると、同じことを繰り返し話したり、外出して戻れなくなったり、伝えたことを理解できなくなるようなことがありますが、これらの症状が現れると、周りの家族が受け入れることができなくなってしまいます。こうして介護者のストレスが大きくなってしまうと、「さっきも伝えたでしょ!」「なんで同じことばっかり言うの!」など、両親に当たってしまうことが起こります。
しかし、認知症の両親は、単なる物忘れではなくすっぽりと記憶が抜け落ちているので、家族からの言動に対して混乱が生じてしまいます。その混乱から生じる症状が「周辺症状」です。

自分の居場所を探して歩き回って帰り道が分からなくなったり(徘徊)、自分の気持ちをうまく伝えることができなくなり暴力をふるったりすることもあります。しまい込んだものを思い出せずに「盗まれた」と家族に妄想を抱くようなことも周辺症状のひとつです。
これらは認知症特有なものと思いがちですが、あくまで混乱によって生じているものなので、関わりによって改善できる可能性があります。
こういった症状が出現した場合には、介護や支援方法を見直してみることも大事になります。

認知症介護でイライラしない具体的な方法

認知症介護においてイライラしないためには、適切な介護を行うと同時に、介護サービスを利用するなど自身のストレスを解消する工夫が大事です。認知症に対する理解を深めることや、ケアマネジャーにケアプランを見直してもらうこともまた必要でしょう。
どのようにすれば介護でイライラしないのか、具体的な対策をお伝えしていきます。

認知症サポーターを受講する

厚生労働省では『認知症サポーター養成講座』を通じて認知症に対する知識を普及と偏見のない社会を目指し、地域において認知症の人が安心して暮らせるように取り組んでいます。
昨年度末の時点で、全国には約1264万人がこの講座を受講しています。(※2)

この講座は、地域の住民が参加できる講座として開催される3時間程度のプログラムです。認知症とはどのようなものなのか、認知症の人にはどのように介護・支援をすればいいのかなど、キャラバンメイトと呼ばれる専門職が講師となって情報提供しています。誰でも気軽に参加することができますから、まずは認知症について学ぶ気持ちで受講してみるとよいでしょう。

「家族の会」を利用する

各地で行われている
家族の会の一例

活動内容

認知症の人と家族の会(※3)

全国47都道府県に支部がある介護者の会。介護者や認知症の本人が集いあって、悩みを共有することができる

大阪府介護者(家族)の会連絡会(※4)

認知症の人などの介護によって孤立や悩みをなくすための情報共有を目的に開催されている

世田谷区介護者の会・家族会(※5)

認知症の人の介護をする家族などが集う場。介護経験の共有や日ごろの思いを語り合うことが目的

※各家族の会の情報をもとに筆者作成

介護において懸念されるのは、社会から孤立してしまうことです。特に認知症は、社会の偏見などを恐れ、誰にも相談できないと考える介護者も少なくありません。そのようなことから、地域には認知症の介護者で構成される「家族の会」が多く開かれています。「相談できる人がいない」という人でも、同じ境遇の人が集まる場では、心置きなく悩みや不安に思っていることを相談できる場合が多いのです。

地域ごとに開催されているもののほか、全国的な組織として「認知症の人と家族の会」があります。歴史ある組織であり、入会している人も多いので頼りにできるでしょう。

自分の時間を確保できるよう医療・介護サービスに頼るようにする

主治医やケアマネジャーに相談する場合、どうしても認知症の両親本人の相談になりがちです。しかし、介護者自身が介護でストレスを感じているようであれば、その旨を伝えることが大事です。主治医に相談すれば、詳しい症状を聞いたうえで処方内容が変更になる可能性もありますし、認知症のタイプに応じた対処方法のアドバイスをもらえるかもしれません。ケアマネジャーに相談すれば、本人のためのサービスだけではなく、負担を軽減させるためのショートスティなどを手配してもらえることもあります。

認知症介護に便利なグッズなどを活用する

認知症介護に便利なグッズやサービス

内容

見守りキーホルダー

徘徊中に保護されたときなどに身元を確認できるキーホルダー

電磁調理器

自治体によっては、防火に対する配慮が必要な方に調理器や火災警報器などを支給するところがある

緊急通報システム

緊急時にボタンを押すと警備会社に繋がるサービスシステム

配食サービス

昼食のお弁当(有料)を届けると同時に、安否確認を行ってくれるサービス。何かあった場合は、担当のケアマネジャーに連絡してもらえる

世の中には、認知症介護に役立つさまざまなグッズが販売されていますが、行政においても機器やサービスを提供しています。自治体にもよりますが、無料で配布されているものや、格安で利用できるものもあります。なかには、介護保険サービスでは受けられないものもあるので、こういった自治体のサービスを上手に活用するとよいでしょう。お住まいの自治体ではどのようなサービスが提供されているのか確認してみましょう。

まとめ

この記事では、認知症の両親の介護で疲れないために工夫できることをお伝えしました。

認知症によって変わりゆく両親の姿に戸惑いを感じている介護者も少なくありません。「昔はあんなに気丈だったのに......」「昔と比べてまったく変わってしまった」と嘆く介護者は多くおられます。しかし、認知症はいまや誰にでも発症する可能性のある病気だと言え、適切な介護方法によって状態の進行を遅らせることも可能です。認知症でも穏やかに過ごすことができるのです。

認知症に対する知識を深めながら、介護サービスや医療サービスとうまく関わっていくことで、ストレスをためることなく介護に取り組むことができるようになるでしょう。

※「令和2年度平均年収と学歴調査

参考:

※1 厚生労働省「認知症の中核症状|認知症の中核症状とは」
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ninchishou/chukaku.html

※2 認知症サポーターキャラバン
http://www.caravanmate.com/

※3 認知症の人と家族の会
http://www.alzheimer.or.jp/

※4 大阪府介護者(家族)の会連絡会
http://www.osakafusyakyo.or.jp/chiiki-g/pdf/1907022595_01L.pdf

※5 世田谷区介護者の会・家族の会一覧
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/fukushi/006/002/001/d00037326.html

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