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いつ、どうやって説得する? 親の運転免許返納

kurashino

高齢ドライバーによる交通事故が頻繁に報道されています。
現場の悲惨な様子をニュースで見るにつけ、ふと頭をかすめるのが、親のこと。

「うちの親もいつか事故を起こすのではないか」と心配で、いてもたってもいられなくなり、思い切って免許返納を促してはみたものの、なかなか説得に応じてくれないという経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。

でも、思い出してみてください。
初めて免許証を手にした日のことを。初めて自分の車に乗った日のことを。

「これで、誰の力も借りずに、好きなときに好きなところへ行ける!」
まるで自由そのものを手に入れたかのようにウキウキした気分にならなかったでしょうか。
免許返納は、その自由を自ら手放すということです。返納のための説得を、「もう一人前とは認めないぞ!」という宣告のように感じる人がいたとしても、不思議ではありません。

では、高齢な親に免許返納を受け入れてもらうには、どのようなタイミングで、どのように説得したらいいのでしょうか。

高齢者運転の現状

まず、高齢者運転の現状をみてみましょう。
以下は、免許人口10万人あたりの死亡事故件数を年齢別に表したものです。 

内閣府「平成29年度交通安全白書|特集 「高齢者に係る交通事故防止 I 高齢者を取りまく現状」を基に作図

この図からわかるのは、高齢ドライバーによる死亡事故件数がなかなか減らないこと、免許保有者に占める死亡事故の割合は、75才以上が75才未満の約2.3倍であることです。

75才以上の高齢者は、ハンドルやブレーキなどの不適切な操作による死亡事故の割合が75才未満ドライバーの2倍近いという統計もあります。

内閣府「平成30年版交通安全白書|概要:先端技術を活用した交通安全の取組」を基に作図

個人差があるので一概にはいえませんが、データからみると、75才がひとつの境界といえるのかもしれません。

なお、団塊の世代が70代にさしかかっていることにともない、75才以上の運転免許保有者は徐々に増加しています。一方、免許返納者数も少しずつ増加してはいるものの、その割合は、2018年時点で免許保有者の約5.1%にすぎません。

75才以上の運転免許保有者数の推移

 

保有者数

自主返納者数

自主返納者数の割合

平成26年

447万人

10万人

2.2%

平成27年

478万人

12万人

2.5%

平成28年

513万人

16万人

3.1%

平成29年

540万人

25万人

4.6%

平成30年

564万人

29万人

5.1%

警察庁「運転免許統計」(各年)を基に作表

免許返納が進まない理由

では、なぜ免許返納が進まないのでしょうか。警察庁が2015年に行った調査をもとに、返納が進まない理由を探ってみましょう。

以下は、高齢ドライバーが運転する目的を運転継続者と免許返納者に分けて表したものです。

警察庁「運転免許証の自主返納に関する アンケート調査結果」を基に作図

この図をみると、「車を運転する職業のため」「通勤のため」「買い物のため」といった生活するうえで必要な目的が継続者、返納者ともに、70%近くを占めていることがわかります。一方、「趣味のため」はどちらも10%程度とさほど多くありません。

続いて下の図は、高齢ドライバーが運転する意味を表しています。この図をみると、自主返納者に比べて運転継続者の方が「交通手段」と答えた人が多く、「生きがい・楽しみ」と答えた人が少ないことがわかります。

警察庁「運転免許証の自主返納に関する アンケート調査結果」を基に作図

以上から、高齢ドライバーの多くは、必要性があって車を利用しているのだということがわかります。

返納した人としない人の差

では、運転免許を返納した人と運転を継続している人の差はどこにあるのでしょうか。

地域差と運転頻度

以下は、都市規模別に移動手段としての車の分担率を表したものです。

警察庁「運転免許証の自主返納に関する アンケート調査結果」を基に作図

分担率とは、住んでいる都市における通勤・通学で利用する交通手段のうち、鉄道・電車、乗合バスの割合を「公共交通分担率」、自家用車の割合を「自家用車分担率」としたものです。

この図から、都市規模が小さいほど、移動手段として自家用車に依存した生活を送っていることがわかります。鉄道網が充実している都会とそうでない地域の交通事情がこうした生活形態に反映しているのでしょう。なお、本調査では都市規模が小さいほど運転頻度が高いことも分かっています。

さて、こうした状況は返納しようという意識にどのような影響を与えているのでしょうか。
都市規模別に「自主返納しようと思ったことがない人」の割合を見てみると、予想どおり、都市規模が小さいほど返納しようという意識の低いことがわかります。

警察庁「運転免許証の自主返納に関する アンケート調査結果」を基に作図

以上のことから、都市規模が小さい地域に住んでいる人は移動手段として自家用車に頼る生活をしているため、その手段を失うと生活が不便になるという切実な事情を抱えていることがわかります。

返納した理由、返納をためらう理由

では、自主返納者はどのようなときに返納しようと思ったのでしょうか。また、運転を継続している人はなぜ返納をためらうのでしょうか。
以下は、「自主返納をしようと思ったとき」と「自主返納をためらう(ためらった)理由」を表しています。

警察庁「運転免許証の自主返納に関する アンケート調査結果」を基に作図

ご覧のとおり、「運転継続者」と「自主返納者」とでは、大きな差がありますね。
なお、自主返納者が自主返納をしようと思った契機として、最も割合が高いのは、「家族等に勧められたとき」(33.0%)。家族の説得もある程度、効果があることがわかります。

返納をためらう理由は、「ためらう理由となるものはなかった」の割合がもっとも高く、「車がないと生活が不便なこと」(33%)を上回っていることがわかります。この辺りが運転継続と返納を分けるカギでしょうか。

返納にともなうリスク

説得の方法について考える前に、返納にともなうリスクも認識しておきましょう。

運転を止めた高齢者が要介護状態になる危険性は、運転を継続していた高齢者の約8倍あるという調査があります。また、運転をしていた高齢者は運転をしていなかった高齢者に比べ、認知症のリスクが約4割減少することもわかっています。
運転のような高度な認知機能を必要とする行動の保持が、認知症の抑制によい影響を及ぼす可能性もあるのです。

このことから、免許返納のタイミングを的確に見極めることが大切であることがわかります。また返納後は、これらのリスクを最小限に抑えるサポートが必要です。

効果的な説得の仕方は?

ここからは、どのようなタイミングでどのように自主返納を勧めたらいいのか、考えていきたいと思います。

タイミングは?

先ほどみたように、返納には健康上のリスクもありますから、タイミングが大切です。年齢的には上述のとおり、75才がひとつの目安です。

親御さんがその年齢に差しかかったら、ときどき親御さんが運転する車に同乗してみましょう。
警察庁が発行する「運転免許自主返納に関するリーフレット」(※)には、以下のような要注意の症状例が挙げられています。

  • 右左折のウインカーを間違って出したり忘れたりする
  • カーブをスムーズに曲がれないことがある
  • 歩行者、障害物、他の車に注意がいかないことがある
  • 車庫入れの時、塀や壁をこすることが増えた

同乗して、このような様子がみられたら、そろそろそのタイミングかもしれません。

移動手段の確保・配達の利用

先ほどみたように、自主返納をためらう大きな理由は、「主な交通手段を断たれ、生活が不便になる」というものでした。一方、返納した人の約半数が、「返納をためらう理由がなかった」と答えています。
このことから、返納後、自家用車に代わる交通手段を確保することが返納につながることがわかります。

では、高齢ドライバーは、自家用車の代替として、どのような交通手段を望んでいるのでしょうか。
以下は免許返納者が役に立つと思う支援内容を都市規模別に表したものです。

警察庁「運転免許証の自主返納に関する アンケート調査結果」を基に作図

この図によると、都市規模に関係なく交通手段の充実にかかわる支援が70%以上を占めていることがわかります。また、都市規模が小さいほど「交通機関の発達」より、乗合タクシーやコミュニティバス、タクシーの割引券などの「交通手段に関する支援の充実」を希望する人の割合が高いことも読み取れます。

したがって、都市規模の小さい地域に該当する場合には、実際にその地域で利用可能な交通手段や交通に関わる支援を調べて、安心して暮らしていける体制を整えることが有益な説得材料の一つになると言えるでしょう。

また、移動の目的が主に買い物の場合、配達サービスを利用する方法もあります。現在は、多くのスーパーやコンビニが配達サービスを行っています。配達料が必要な場合もありますが、車の燃料代や維持費を考えればリーズナブルです。

返納特典の利用

現在は、地方自治体毎に自主返納者への特典が用意されています。内容は、バスやタクシーの回数券や割引券の配付、施設や店舗の割引など多彩です。しかし、運転継続者の59%はこうした特典があることを知らないという調査結果があります。
こうした情報を伝えることも免許返納を説得する材料として有益ではないでしょうか。
以下のサイトに各都道府県の支援制度がまとまっています。一度確認してみるとよいでしょう。

運転免許証の自主返納をお考えの方へ 〜各種特典のご案内〜 - 高齢運転者支援サイト

運転経歴証明書の申請

免許返納に際して忘れてはならないことに、「運転経歴証明書」の申請があります。免許返納後、身分を証明する必要があるときに手軽に使える「運転経歴証明書」の交付を受けておくと安心です。

警察庁「申請による運転免許の取消し(自主返納制度)と運転経歴証明書」を基に作図

説得者は誰にする?

誰が説得にあたるかは大きな問題ですね。一概にはいえませんが、試みに考えてみると「候補者」は次のようになるでしょうか。

  1. 気兼ねなく本音が言い合える人
  2. 本人がこよなく愛している人
  3. 気兼ねがあり、本人が一目置いている人
  4. 返納経験者
  5. 上記1-4の組み合わせ

相性やタイミングもあると思いますが、ここでは、それぞれのリスクについて考えてみたいと思います。

1の場合、イメージするのは、子どもや兄弟などです。リスクとしては、気兼ねがないぶん、甘えが生じて言い合いになり、かえってこじれる恐れがあるということでしょうか。

2の場合、イメージするのはお孫さんなどです。何を言われても、孫はかわいいもの。リスクは比較的、少ないかもしれません。

3の場合、お友だちや親戚の誰かでしょうか。家族と比べて本人との関係に多少なりとも距離がある場合が多く、プライバシーにどこまで踏み込めるかという問題がありますね。

4も2と同様、リスクは低いと思われます。返納後の経験談は真実味をもって本人の胸に届くでしょう。ただ、これに該当する人が、1あるいは3の場合、それぞれの関係性がどのような影響を与えるかは不透明です。

5は、メリットとリスクを考えあわせれば、案外良い組み合わせがみえてくるかもしれません。ただ、数に物を言わせて本人を追い込まないように留意する必要があるでしょう。

いずれにせよ、家族の免許返納は一義的に家族の問題です。説得者を誰にするかは家族間の話し合いで決めましょう。

説得方法

説得方法は物心両面から考える必要があります。先ほどみた交通手段の確保や配達利用、返納者への特典は生活の利便性に関わることなので、返納に踏み切るうえでの安心材料になるでしょう。

もうひとつ、大切にしなければならないのは、心情です。冒頭でお話しした、高齢ドライバーのプライドは、最大限、尊重すべきだと思います。
高齢ドライバーは、若い頃には家族を車に乗せ、ときには送り迎えをして、家族に貢献してきたのではないでしょうか。また、高齢になってからも、人に頼らず、自立的な生活を営んできたはずです。そのことに対する感謝の気もちと敬意をことばにして、素直に伝えてみませんか。
説得のためのテクニックとしてではなく、心からのメッセージとして。

返納までの間は

最後に、説得から返納までに時間がかかる場合の安全策について考えてみましょう。
まず、簡単にできるのは、「高齢者標識」、よくみかける下のステッカーの利用です。

「道路交通法」では、「加齢にともなって生ずる身体機能の低下が自動車の運転に影響を及ぼすおそれがあるときには、(中略)このマークをつけて運転するように努めなければならない」とされています。このステッカーをつけることで、周囲の車が高齢ドライバーの安全な通行に配慮してくれる可能性が高まります。

次に、安全な装置やサポカー(安全運転サポート車)の利用です。ぺダルの踏み間違いや急発進などを抑制する後付けの装置や、安全装置が搭載されたサポカーを購入する際の補助金が、令和元年度補正予算案に盛り込まれました。対象は65才以上の高齢者で、2019年12月23日以降に新車新規登録(登録車)または新車新規検査届出(軽自動車)された自動車が対象となっています。
このような制度を利用して、安全な装置を後付けしたり、車を購入する際にはサポカーにしたりしてはいかがでしょうか。

そして、引き続き、時々は高齢ドライバーの車に同乗し、返納する時期を見極めましょう。
第一に考えなければならないのは、高齢者が安全で健康な生活を維持していくことです。
そのために家族ができることを考え、さまざまな制度も利用して、高齢家族がこの先も安全で健康な生活が送れるよう、心を配ることが大切です。

※「令和2年度平均年収と学歴調査

※ 警察庁「運転免許自主返納に関するリーフレット」
https://www.npa.go.jp/policies/application/license_renewal/pdf/rdhleaflet.pdf

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