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それでも一緒にいるのなら! 老後を寄り添って暮らすためには

kurashino

久しぶりに落語が聴きたくなりました。おさきさんという稼ぎのいい髪結いがいて‥‥‥と聞けば、「ああ、あの噺だ」と、すぐにわかる方もいらっしゃるでしょう。

連れあいは八つぁんは、道楽者。女房の稼ぎをあてにして日中から酔いどれている。年がら年中、口げんかが絶えません。おさきさんはそれでも添い遂げたいと、一途です。ですから、思い切って八つぁんの気持ちを試すことにしました。八つぁんが大切にしている皿をわざと割って反応をみたのです。すると、八つぁんは、「からだはだいじょうぶか、ケガはしていないか」。おさきさんは泣いて喜ぶのですが......。

落語の人物は時空を越えて、どこにでもいる人たちです。私たちと同じ市井を生きています。ですから、おさきさんと八つぁんが今、私たちの隣にいたとしてもおかしくありません。
でも、それとは対照的に、夫婦の関係は大きく様変わりしました。おさきさんたちが元々住んでいた時代には想像もできなかった夫婦の形が、今の時代には溢れています。

現代の夫婦関係の特徴

時代とともに、夫婦の関係はより複雑になり、その概念も実態も変容しています。では、今の夫婦関係の特徴とはどのようなものでしょうか。

疑似他人関係

まず、「生活者としての夫婦」に着目します。下図は、生活者としての夫婦関係をモデル化したものです。

2つの楕円が重なる部分は、「カップルとしての夫婦の関係」「子どもを含めた家族としての関係」を示しています。社会的にも双方が夫や妻、父親、母親として認められており、プライベートな時間や空間を共有し、家族として協力し合う関係にあります。
一方、楕円の重ならない部分は、「生活者としての夫婦関係」を表しています。ひとりの人間として相手の生き方をサポートする、また相手の生き方を妨げない、という合意に基づいた関係です。それぞれに、職場があり、親族や友人がいます。これら社会との接点は、カップル、家族として以上に広いものであることが分かります。つまり、夫婦関係といっても個人的な領域のほうがずっと広く、夫婦単位の領域は、わずかに重なり合う部分にすぎないのです。

神戸学院大学の神原文子教授は、こうした特徴を「疑似他人関係」と呼んでいます。他人ではないけれど、まるで他人のような関係という意味合いですね。

現在は、男性も女性もひとりで生きていくことが可能です。そのような状況では、「カップルとして生活する」という選択をするには、積極的な意味が必要になります。そして、結婚したとしても、2人の関係が存続する保証はありません。それを暗黙の前提として夫婦関係が成立しているのです。つまり、夫婦とはいつ崩壊するかわからない危うい関係なのです。

「伝統的な考え方」に対する意識

かつては夫婦関係において明確なジェンダーが存在しました。そのため、夫と妻のロールモデルが身近にいくらでもありました。将来、何になりたいかと聞かれて「お嫁さん!」と答える女の子がまれではない時代もあったのです。

では、そのような「伝統的な考え方」に関する意識は、現在、本当に変化しているのでしょうか。
国立社会保障・人口問題研究所が、ほぼ5年毎に行う「出生動向基本調査 (独身者調査ならびに夫婦調査)」を見てみましょう。

国立社会保障・人口問題研究所「2015年 社会保障・人口問題基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」 p.88 図表Ⅲ-3-4を基に作図

「どんな社会においても、女らしさや男らしさはある程度必要だ」「結婚前の男女でも愛情があるなら性交渉をもってかまわない」「結婚しても、人生には結婚相手や家族とは別の自分だけの目標を持つべきである」の支持率は8割を超えており、他の項目もまた概ね半数以上が支持しています。むしろ、日本にある伝統的な考え方のうち半数を下回っているのは、「結婚したら、家族のためには自分の個性や生き方を半分犠牲にするのは当然だ」「結婚後は、夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」の2つのみ。
このように多様で複雑な価値観のまっただ中にあっては、固定的なロールモデルは存在しません。それぞれの夫婦が自分たちにふさわしい夫婦関係を模索していくしかないのです。

夫婦間のギャップ

以下は、夫婦関係に関する満足度を年代別にまとめたものです。

夫婦関係全体に関する満足度

日本家族社会学会全国家族調査委員会HP(2011)「第3回全国家族調査 (NFRJ08) 刊行物:第一次報告書:6 家族に関する意識」 p.87

この表をみると、すべての年代で、「かなり満足」と答えた人の割合は、女性より男性の方が高いことがわかります。裏をかえせば、女性は男性より満足度が低く、不満足度が高いのです。

次に、休日の過ごし方に関する希望を、結婚期間別に見てみましょう。

永井暁子 「夫婦の距離」(神原文子・杉井潤子・竹田美知編著『よくわかる現代家族 第2版』,ミルヴァ書房, 2016) p.105のデータを基に作成

この図をみると、パートナーに休日を一緒に過ごしてほしいと希望する割合は、結婚当初は女性の方が高いことがわかります。でも、女性のそうした希望は結婚年数を経るにつれ低下し、結婚21年を過ぎると男性と逆転することがわかります。つまり、はじめのうちは妻の方が一緒に過ごしたいと思っているのに夫はそれほどでもなく、結婚後かなりの時間が経ち、夫が一緒に過ごしたいと思ったときには、妻はもう夫と一緒に過ごしたいとは思っていないのです。

ギャップはどこから生じるのか

こうしたギャップはどこから生じるのでしょうか。まず、ライフステージに注目して考えてみましょう。
結婚当初は、お互いの役割分担をめぐって齟齬が生じやすい時期です。相手への期待と現実とのギャップが相手への不満につながります。また、出産、育児期には、パートナーとしての役割に父親、母親としての役割も加わり、役割関係が変化します。そして中高年になると、子どもたちの自立や親の介護問題、さらには自分やパートナーの退職とさまざまな変化が訪れ、その度に夫婦関係も再統合を迫られます。こうした各局面でギャップが生じ、それらが次第に蓄積していくのです。

以上のようなライフステージが要因となるほかに、「ワーク・ファミリー・コンフリクト」の問題があります。これは、仕事役割と家族役割の葛藤のことです。
仕事のために家族役割に支障が出るのは、女性より男性の方が多いという研究結果があります。男性は仕事のために多くの時間を費やす一方、家庭では家事・育児に積極的に参加することを期待されている状況があるからです。

以下のグラフは、独身男女が結婚相手として考慮・重視することを表しています。

国立社会保障・人口問題研究所「2017年 社会保障・人口問題基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」 p.30を基に作図

グラフからは、男女ともに結婚相手に望むのは、「人柄」。次いで「家事・育児の能力」です。先述のとおり、男性のワーク・ファミリー・コンフリクトは、主に労働時間の長さによって生じます。一方、女性にワーク・ファミリー・コンフリクトが生じたときには、パートナーのサポートがそれを軽減する大きな要因になっています。

ここまでをまとめてみましょう。
夫婦仲とは、それぞれの局面で、お互いが相手の望むサポートをし、お互いの役割分担を相手の期待どおりに果たしつつ、その関係を構築したり再編したりしながら維持していくことで決まるようです。その一方、個人としての相手の生活をお互いに尊重し合おうとする傾向もあります。どうやら夫婦が円満に過ごすことは容易とは言えなさそうですね。

夫婦関係を改善するためにできること

最後に、同居年数別の離婚件数の推移を紹介します。

厚生労働省「平成 29 年(2017) 人口動態統計月報年計(概数)の概況)」 <表 12 同居期間別離婚件数の年次推移>を基に作図

このグラフは同居期間20年以上の夫婦の離婚件数を表したものです。同居年数が20年以上の夫婦の離婚は、平成17年には年間4万件を数えますが、近年はやや落ち着きを見せており、3万6,000~3万8,000件で推移していることがわかります。また、「同居年数35年以上」に注目すると、平成17年以降は割合がぐっと高くなり、10年後には6,000件辺りで、ほぼ横ばいになっています。長年の結婚生活を経て、いわゆる熟年離婚に行きつく夫婦も一定数いるのですね。

離婚にいたらなくても、別居している夫婦もいます。ひとつ屋根の下で暮らしていても心の通わない仮面夫婦もいるでしょう。でも、誰にとっても人生はかけがえのないものです。
夫婦の不仲を改善して、残りの人生を幸せに過ごすにはどうしたらよいのでしょうか。

夫婦仲を改善する、「魔法の方法」はあるのか

「おさきさん」という生き方からみえるもの

むかし読んだ本や聴いた音楽、観映画や芝居に触れたとき、ふと気づかされる瞬間があります。こころに響くものが、若い頃とは違うということに。

冒頭のおさきさんの話にもどりましょう。
久々に再会したおさきさんは、「おしゃべりなオバサン」から、「けなげな女」に変身していました。
噺のオチは、八つぁんのセリフです。

「お前さん、私のからだを心配してくれるんだね」
「当たりめえじゃねえか。おめえにケガされてみねえ、あしたから遊んでて酒が飲めねえ」

照れ隠しでしょうか、本音でしょうか。どちらにしても、おさきさんは今までどおり八つぁんに尽くしながら生きていきそうな気がします。相手に見返りを求めない、それが愛だからです。夫婦仲が悪くても、愛があればなんとかなります。愛があれば、どんなふうにでもやっていけます。
でも、愛は変わるもの、消えるものでもあります。愛に依存した関係は、愛が消えればたちまち崩れ落ちます。

では、愛と呼べるものが消えてしまっても関係を続けている夫婦は、何によってつながっているのでしょうか。情でしょうか。情は断ち切ろうと思ってもなかなか断ち切れませんね。あるいは、打算でしょうか。2人とも承知のうえのことならば、それも夫婦のひとつの形といえないこともありません。惰性でつながっている夫婦もいるかもしれませんね。消極的ではあっても、それもひとつの選択です。

悩みながら生きていくのが人生

では、仲の悪い夫婦が夫婦仲を改善する方法はあるのでしょうか。
もし、夫婦仲を改善したいと本気で願うのなら、まず、2人揃って強い意志と覚悟を持つことが必要です。そして、不仲になった原因と理由をみつめるしかありません。それは辛い作業ですし、望ましい結果にいたるとも限りません。でも、改善したいと望むなら、それでもやってみるしかありません。
もう改善は諦めて、せめて心穏やかに暮らしたいと願うのなら、「それでもできることは何か」と考えてみるのはどうでしょう。テーブルに花を一輪飾ってみる。おいしいスイーツを買って帰る。ささやかな心遣いでいいのです。それが、「せめて、穏やかに暮らそう」というメッセージとなって、いつかパートナーの胸に届くかもしれません。

魔法のような方法はありません。人生は複雑で起伏に富んでいます。その都度、あなたの心で感じ、頭で考え、からだで実現していくしかないのです。みんな悩みながら生きています。それしか方法がないのです。でも、「悩みながら生きていくのが人生だ」と受け入れられれば、目に映る景色は変わって見えるかもしれません。それはどのような景色でしょうか。確かなことは、あなたの景色はあなたにしか見えないということです。

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