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夫婦げんかをしてもしなくても! 老後も仲良く暮らすためには

kurashino

1907年7月23日付けの漱石の手紙が残っています。

「夫婦は親しきを以て原則とし、親しからざるを以て常態とす。」

夫婦は仲睦まじいのが原則であり、睦まじくないのが常である、というような意味でしょうか。宛先は、結婚を控えた門下生です。
漱石らしいウィットに富む物言いですが、実際のところ、漱石と鏡子夫人との夫婦生活は「常」の方に合致していたようです。平穏なものではなく、いさかいが絶えなかったといわれているのです。
漱石は留学先のロンドンから以下のような意味の手紙を夫人に送っています。

お前の手紙にはそれやこれやで連絡を忘れた云々とあるけれど、(中略)もう4カ月ほどもこちらに1度も連絡してこない。それで、「それやこれや」くらいの言い訳でいいと思うのか。(中略)よく考えて口をききなさい。また行動しなさい。(1902年2月2日付)

怒っていますね。100年以上前も現在も夫婦の「常」は変わらないようです。
では、どうしたら長い結婚生活を仲良く過ごすことができるのでしょうか。「夫婦喧嘩」に注目して、老後も夫婦円満に暮らすための方法を考えてみましょう。

結婚継続年数と夫婦関係満足度の関係

これまでの調査から、興味深い結果が得られています。
家族だんらんや夫婦の会話から満足感を得る人が多い一方、結婚継続年数が長くなると、夫婦関係満足度が低下するという事実です。
それはなぜでしょうか。まずは、以下のグラフを見てみましょう。内閣府の調査によると、18歳以上の男女が充実していると感じる時として、「家族団らんの時」を一番に挙げています。

内閣府政府広報室「国民生活に関する世論調査の概要 令和元年8月」 p.11 「充実感を感じる時(複数回答)」を基に作図

広い世代をとおし、「家族団らんの時間を充実していると感じる」としながらも、夫婦の単位で関係をみるとどうなのでしょう。
リクルートブライダル総研の調査によると、夫婦関係に満足していると回答する割合は、40代以降は夫のほうが高いことが分かります。また、20~40代は夫婦間の差は、さほど大きくないものの、50代では5.3%、60代では8.8%と開きが出ていることも特徴的です。

リクルートブライダル総研「夫婦関係調査2019」を基に作図

この結果から、「女性は年代が高くなるほど、夫婦関係の満足度は低くなる傾向にある」といえそうですが、これは何を意味しているのでしょう。

夫婦げんかをしないためには

ここから、夫婦げんかについて考えていきたいと思います。

ゲンナイ製薬株式会社が2015年に行った調査によると、「相手を好きな気持ちが強い」割合は、妻よりも夫のほうが高いことがわかっています。また、「口げんかが強い」のは妻で、「けんかで先に折れる(謝る)」のは夫、とのこと。どちらも如実な結果が出ている点は興味深く、パワーバランスはどうも女性のほうに傾いているようにみえます。

ところが、「相手への不満を我慢している」のは、妻のほう。ゆえに、いざ口げんかになると、妻は我慢していたぶんの怒りが噴出してしまい、夫が火消しをしなければならない状態になるのかもしれません。

ゲンナイ製薬株式会社「夫婦の関係と夫婦の会話に関する調査」を基に作図

夫婦のパワーバランスをもう少し詳しくみてみましょう。
引き続き、ゲンナイ製薬社のグラフから考察します。以下は、「夫婦のパワーバランスと夫婦円満の関係」を表しています。 

ゲンナイ製薬株式会社「夫婦の関係と夫婦の会話に関する調査」を基に作図

これら2つのグラフから感じ取れるのは、夫婦げんかをしてしまったときは、夫から謝るほうが夫婦円満につながるということです。ただ、けんか以外のことは、夫婦のパワーバランスが「五分五分」のときが、円満でいられる割合の高いことがわかります。パワーバランスが偏って夫婦のどちらかが「不公平感」を抱くような状況では、夫婦円満とはいかないのですね。したがって、パワーバランスを保つことが、けんかをしないための秘訣といえそうですから、妻が夫への不満を我慢している状態が続くことは、危険な状態です。

夫婦間の違いを知っておきましょう

これまでみてきたことから、相手への不満を我慢しているのも、口げんかが強いのも、妻であることがわかりました。また、けんかのあと、先に謝るのは夫のほうが多く、むしろそのほうが夫婦円満につながることもわかりました。しかし、それはなぜでしょう。理由になり得る2つの可能性をご紹介します。

ひとつ目は、コミュニケーション態度の違いです。
夫婦を結婚年数により「初期群」(結婚年数10~14年)、「中期群」(同15年~29年)、「後期群」(同30~61年)に分け、コミュニケーション態度の違いを調べた調査があります。

これによると、夫より妻のほうが相手に対してよりポジティブな態度を示すことが多く、妻より夫のほうが相手に対してよりネガティブな態度を示すことが多い、ということがわかっています。また、後期群では、男女の認識差は大きく、夫は妻に対して良い態度で接しているつもりなのですが、妻は、夫の自分への態度はこれまでで一番良くないと認知しています。
これは、コミュニケーション態度に関する男女の認識の違いが、妻の満足度を下げ、そのため妻が不満を抱え込んでいる可能性を示唆しています。

次に、女性と男性では、脳の働き方が異なるという研究を紹介します。
1万人におよぶ男女の脳の働きを研究してきた、脳科学者のルーベン・ガー博士は、「会話をするとき、男性は主に左脳の前後を連結させ、情報伝達物質をやり取りする一方、女性は右脳と左脳を連結させ、情報伝達物質をやり取りする。女性は、相手の表情などを見ながら、気持ちや感情まで理解しようと試みている」 と話しています。

つまり、女性のほうが相手をより深く理解しようとしているのに対し、男性は女性ほど相手のことが理解できていないおそれがあるということですね。ただし、「相手は決して悪い人ではないことを理解しなければならない。単なる性別による思考回路の違い」とガー博士は説いています。
このように、男性と女性には元来、生理学的な違いがあるのです。そう考えると、今までのコミュニケーションがしっくりこなかった理由もまた、脳の構造の違いなのかも、と思えないでしょうか。

冷静に事実を分析する方法

相手への思い込みは夫婦関係を悪化させ、けんかを誘発します。
そこで、さまざまな観点から物事を見つめ直し、相手をよりよく理解するための手法を紹介します。異文化間コミュニケーションで用いられる「DIEメソッド」を少しアレンジした方法です。
用意するのは、紙1枚とペン1本。でも、慣れてくれば、頭の中で処理できるようになります。

用意した紙を横長にし、線を縦に2本引いて、3等分しましょう。
まず、真ん中のスペースに「事実」を書きます。感情や解釈は排除し、見たことをそのまま書きます。次に左のスペースに「評価」を書きます。その事実に接して自分がどう感じたのかを書くのです。最後に、右側のスペースに「解釈」を書きます。自分が相手に対してどう考えたか書きます。

たとえば、あなたがパートナーの服装を褒めたのに、「反応がなかった」とします。これが事実です。
あなたはそれに「ムカッときた」、これが評価です。相手のことを「鈍感でつまらない人だ」と考えた、これが解釈です。

ここでもう一度、事実を見直してみましょう。パートナーはそのとき、何をしていたか、どのような表情だったか、その後どのような行動をとったか......と。
すると、「聞こえなかったのかもしれない」、「考えごとをしていたのかもしれない」、「褒め方が悪かったのかもしれない」、「疲れていたのかもしれない」と、さまざまな解釈が浮かんでくるかもしれません。それを解釈の欄にできるだけたくさん列挙していくのです。そうすると、最初の解釈がもしかしたら間違いだったのかもしれないと気づくこともあるはずです。

即座にくだした判断が正しいとは限りません。感情的にならずに冷静に事実を見つめ、いったん態度を保留にしてさまざまな解釈を探ることは、誤解や思い込みを排除して相手への理解を深めます。

夫婦げんかに関するタブー

ここでは、夫婦げんかに関するタブーについて考えていきたいと思います。
まずは相手に言ってはいけないNGワードについてみていきましょう。以下は、「パートナーに言われたら、終わりだと思う」NGワードの上位10位です。

ゲンナイ製薬株式会社「夫婦の関係と夫婦の会話に関する調査」を基に作図

男性の数値が目立って高いのは、「触れないで!/生理的に無理」(42.0%)です。一方、女性は、「結婚しなければ良かった/人生を返して」 (54.2%)、「誰の稼ぎで生活していると思っている!」(50.0%)の二つ。両方とも半数に及んでいます。
ここで注意していただきたいのは、「触れないで/生理的に無理」以外の項目は、すべて女性のほうが男性よりも割合が高いことです。

改めて質問は何だったのかを確認してみましょう。
「パートナーに言われたら、終わりだと思う」とありますね。
つまり、たった1回口にしただけで、最悪の場合、離婚にいたるかもしれない言葉です。心しましょう。

この結果を基に、以下のグラフを見ていきます。「実際に相手から言われたNGワード上位5位です。夫婦の関係が「円満」なのか、そうではないのかによって、大きな差の出ている項目が目立ちます。

ゲンナイ製薬株式会社「夫婦の関係と夫婦の会話に関する調査」を基に作図

このグラフから、円満な夫婦はこのようなNGワードを言われた割合が低く、円満でない夫婦は割合が高いことがわかります。NGワードを言われたために夫婦円満ではなくなってしまった可能性もありますね。腹立ちまぎれに言った、たったひと言が取り返しのつかない結果を招くことがあります。要注意です。

夫婦げんかの効用

それでも、夫婦げんかをしてしまったら?
大丈夫。クヨクヨすることはありません。適度に夫婦げんかをすることは健康に良い影響を与える可能性があることが、アメリカの研究で明らかになっています。

ミシガン大学のアーネスト・ハーバーグ名誉教授による研究によると、怒りを抑圧した夫婦の死亡率は一方が感情を表した夫婦の2倍、夫婦ともに死亡した確率は感情を抑圧していた夫婦がそうでない夫婦の5倍近くにいたったというデータがあります。
ハーバーグ名誉教授は、「結婚生活で重要なことのひとつは、けんかをした後の仲直りだ。けんかを解決せずに、怒りを押さえつけてくよくよ考えたり相手を恨んだりすると、トラブルに陥る」と言っています。

先ほどみたように、夫婦げんかの後は、男性から謝った方が円満に収まるようです。言葉で謝るのが難しければ、他の方法でもよいかもしれません。たとえば、私のパートナーは言葉で謝るのが苦手ですが、けんかした翌日、私の好きなチョコレートがデスクにちょこんと載っていたりします。
雰囲気のいいカフェやレストランに誘うのもいいかもしれません。方法はさまざまです。「水に流してやりなおそう」と、勇気をもって伝えれば、その気持ちはきっと相手に届くはずです。

けんかをしてもしなくても

冒頭でご紹介した漱石の手紙文には、続きがあります。

「君の夫婦が親しければ原則に叶う。親しからざれば常態に合す。いずれにしても外聞はわるい事にあらず。」

あなたたち夫婦が仲睦まじければ原則に即している。睦まじくなければ人間の常に合致する。どちらにしても外聞が悪いことはない。要は、けんかをしてもしなくても、どちらでもいいのだと、それが夫婦というものだと、漱石は言っているのですね。

その漱石が、療養先から自宅の夫人に送った手紙を最後に紹介したいと思います。
冒頭の手紙から9年後の同月同日付です。

目がまわって倒れるなどは危険だ。(中略)具合が少しよくなったら、よくなったと郵便で知らせてくれ。(中略)帰っても御前が病気じゃつまらない。早くよく御なり。(1911年2月2日付)

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