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仕事を両立する重要なポイントは"環境整備"

kurashino

安倍晋三首相が掲げる「介護離職ゼロ」が閣議決定されたのは2016年のことです。
介護離職ゼロとは、家族の介護のために離職する人を防ぎ、介護サービスの確保、働く環境改善・家族支援など仕事と介護を両立できる社会づくりをするための国の取り組みです。
しかし、平成29年の調査で介護・看護を理由に離職した人の数は9万9千人。政策が始まる前の平成24年の調査では10万1千人(※)だったので、ほぼ横ばいの状況となっています。

総務省統計局「平成29年就業構造基本調査 結果の概要」図I-5を基に作図

介護される側だけでなく介護をする側にも人生があり、その人生は自分自身の手で守っていかなければいけません。仕事と介護を両立するために、重要なことは何でしょうか。

ご自身も介護離職の経験があり、現在も母親の介護をしながら介護離職についての啓蒙活動を行う、一般社団法人介護離職防止対策促進機構 代表理事 和氣美枝さんにお話を伺いました。

物理的、精神的、2つの側面で環境を整えることが大切

「仕事と介護を両立するためには、仕事に集中できる環境整備が大切です」と和氣さん。
環境整備とは、親を介護するためのサービス、お金などの「物理的環境」と、家族介護者の心の問題となる「精神的環境」の2つ。この2つを上手に整えることが仕事と介護の両立につながります。

物理的環境は、介護保険サービスを使うことで最低限の整備ができます。

「ケアマネジャーに相談する、ヘルパーさんをお願いする、デイサービスを利用する、訪問看護を受けるなど、物理的環境は介護職の人たちの力を借りられます。家族介護者には、その人たちを上手に動かすための力をつけてほしいと思います。"介護は第2の仕事"と思って、介護環境を上手にマネジメントしてください」(和氣さん)

そのためには以下の3つが大切です。

  • 要介護者は何ができて何ができないのかを見極める
  • 自身を含めた家族親族が、だれがどこまで何ができるのかということを共有する
  • ケアマネジャー、ヘルパーなど介護職の人の職域を理解する

しかし実際には、ケアマネジャーが相談にのってくれない、ヘルパーさんはお父さんの気持ちをわかってくれていない......など、介護職と家族の間にいろいろな軋轢(あつれき)や問題が起きることがあります。

「家族のことなので、やはり感情的になってしまいます。でも、感情的に言われると介護職の人だって良い気持ちはしないですよね。介護に携わっているあらゆる方々に気持ちよく仕事してもらうことが介護環境としては良い状態です。ですから全員をひとつのチームとして考え、目的とマネジメント力を持ってください。これはビジネススキルに通じていると思います。『私は何をすればいいんですか?』ではなく、『あなたはこれをやってください』と言えるようになりましょう」(和氣さん)

精神的環境を整えるための4つのポイント

一方の精神的環境はどうでしょうか。「家族介護者にとって精神的環境を整えるのが一番大変です」と和氣さん。
仕事と介護を両立する生活の中で、心配ごとは尽きません。仕事中に親のことで何か気になりだしたらずっと気になってしまう。介護と両立しながら仕事で結果も出さなければいけない。家族介護者にはさまざまなストレスがかかっています。
精神的に不安定になってしまうと、仕事も介護も、自分自身の人生もスムーズに動かなくなってしまいます。そうならないために、和氣さんから4つのアドバイスをいただきました。

1.自分が傷ついていることに気づく

親の介護をすると、親が老いていくこと、できなくなることを事実として突きつけられます。それが知らず知らずのうちに介護者の心を蝕(むしば)んでいきます。

「介護を受けながら生活する親の状況を受け入れることはとても難しいことです。『近所の同年代のおばちゃんはあんなに元気なのになんで』って思ってしまう。だからついイライラし、要介護者につらく当たってしまうことになります。親の老いに対して悔しさや悲しさ、どうしようもない憤りなどがあり、それが結果として、自分自身の心を傷つけてしまうのです。自分がそういう思いを抱いていることを認め、自分の心をいたわってほしいと思います」(和氣さん)

2.相談できる仲間を持つ

相談できる介護経験者を持つことは、悩みを相談するうえでも、また介護の情報を得るうえでも最大の武器になります。

「思いを吐露することのハードルは高いですが、話すことで自分に向き合うこともできます。周囲に介護者がいなければ、家族介護者支援団体などで行うおしゃべり会に参加するのもひとつの方法です」(和氣さん)

3.心身のバランスを整えるアイテムを持つ

仕事と介護を両立する暮らしの中で蓄積されるストレスを、上手に解放できる方法を持つことは強みになります。

「旅行でもいいですし、友人と飲みに行くのでもいい。おしゃべりでもいいですし、介護者支援団体でもいいんです。どうしたらバランスがとれるのかは人によって異なります。心身のバランスをとるアイテムは多いほど強みになります。
私にとってのそれは、第一に仕事です。だからこそ、"仕事を辞めない"という選択肢があることを知っておいていただきたいです」(和氣さん)

4.介護を止める選択肢もあることを知る

悩みやストレスが蓄積し、虐待などの最悪なケースを招くことがあります。限界に達する前に、「介護がどうしても辛かったら、逃げてください」と和氣さん。

「このまま一緒にいたら母も私も死んでしまうと思い、私は自分の部屋に逃げました。母が不安で寝られなかったとしても、一晩2人で一緒にいるよりは離れたほうがいいと思ったのです。逃げることは恥ずかしいことじゃないと私は考えます。逃げる期間が1日なのか、1年なのか、それも問題ではありません。要介護者は福祉や法律が守ってくれます。だから"介護を止める"という選択肢があるということを知っていてください」(和氣さん)

※「令和2年度平均年収と学歴調査

出典

総務省統計局「平成29年就業構造基本調査」P6
https://www.stat.go.jp/data/shugyou/2017/pdf/kgaiyou.pdf

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